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──ヴェルギン宅の外、砂漠にて。
「……」
「……」
二人はぼけーっと虚空を眺め、会話をすることもなく黙りきっていた。
「(急に黙った……もしかして、私を一人にすることが目的?)」
「(この子ってどんな子なんだろ。わかんないから、変なこともいえないし……話しづらいなぁ)」
二人はタイプの違うコミュニケーション障害を持っていた。
フィアは単純明快、他人と関わる気がなく、そして場慣れしていないことによる沈黙。
対するスケープは洞察力の発達に障害があり、相手との距離を測りかねている。それが分からない状態に陥ると、試しの会話さえできない程に臆病であった。
普通であればどちらかが切り出すのだが、二人は本当の意味で沈黙を続けていた。
極端な話、両者とも相手に興味がない。知りたいと思えば多少のリスクは承知で会話が成立するものだ。
それが欠如しているとあれば、この状況もさほどおかしなものではないと分かる。
「(ライトまだかなぁ……)」
「(スタンレーは今頃なにをしているんでしょうか)」
互いに互いを眼中に入れず、時間だけがすぎていく。だが、こうした状態は良好なものともいえた。
フィアがいることにより、彼女を無視して二人の会話を盗聴することはできなくなり、結果的に善大王が組織を疑っていることがスタンレーに伝わらなくなった。
ただ黙っているだけにもかかわらず、この無愛想な巫女は恋人の望む状況を維持していたのだ。
──しかし、それは永劫に続くものではなかった。
「あなた、昔はいなかったけど……何なの?」
「えっ?」
「だから、何なの?」
予期せぬことに、フィアが先んじて切り込んだ。
「何、といいますと?」
「だから、何様? 何者? どうやって取り入ったの?」
「(この子、さっきまでと全然違って、怖い……なんか目もジトっとしてるし、態度もでかいし……)」
誰かがいないと性格が変わるのは、ある意味お互い様といったところだろう。
先ほどまでのスケープはヴェルギンを対象に取ったものであり、彼がみているという安心感からか、あのように軽く振る舞えていた。
それは任意のように見えて、実は反射に近いものだった。故に、彼女一人になってみれば、あのような態度は恐ろしくてできたものではない。
対するフィア、こちらは任意なのか強制なのか判断に困るもので、善大王という自分をみてくれる人を失った時に態度が急変する。
言ってしまえば、好きな人がみていないところでは気を抜く、典型的な怠け者女子といえるだろう。
「早く」
「えっ、はい! ワタシは強いので弟子にしてもらえました!」
「強い? あなたが?」
「はい、相当に」
「……そうは、みえないけど」
ヴェルギンの時の態度、今こうしてみる様子、どちらを取っても強い人物には結びつかない。
《選ばれし三柱》であるとしてもカイトのような例がある為、物腰の柔らかさだけで実力を調べることは困難だが、彼女の場合は放出される魔力も大したことがないのだ。




