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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
673/1603

13

 ──ヴェルギン宅にて……。


「お客様ですか?」

「ああ。ヴェルギンを出してくれ」

「ではどうぞ。ご案内しますよ」

「……話が分からないみたいだな」


 善大王は見覚えのない相手をみて、それが少女ではないと判断した瞬間から冷たい対応を行った。


「(この人誰だろ)」とフィア。

「(少なくともヴェルギンの弟子だろうな。こんな時期に取るなんてのも変だが)」


 その時期外れこそが悪態の一因でもあった。

 彼の予測では、ここにはヴェルギンだけがいるはずだった。そうであれば、腹を割って組織の存在を話すことができる。

 だが、この障害(スケープ)はそれを妨害するどころか、居座り続けようとしているのだ。


「師匠は家の中です」

「……ああ、じゃあお邪魔させてもらう」


 三人が部屋に入ると、かつてと変わりない光景が視界に広がる。


「師匠、来客です」

「今は入れるなと言っておろうが……仮にもワシは──」

「ヴェルギン、俺だ」


 聞き覚えのある声に、臨時軍総司令の男は反応を示した。


「まさか、善大王か?」

「ああ、それとフィアだな」

「こんにちは」

「……こりゃ驚いた。オヌシらが未だに行動をともにしているなど、考えもしなかったぞ」


 よほど気になることだったのか、ヴェルギンは自ら二人を出迎えるべく、玄関まで足を運んだ。


「ふむ……その装束をみると、かつてのことを思い出すのぉ」

「その視線だとスケベ爺にしかみえないぞ」


 フィアは自分がみられていると気付いたのか、今まで平気にしていたにもかかわらず、恥ずかしがるような仕草を見せた。


「オヌシと違い、ワシは年じゃからなぁ。ただ孫の衣装をみているのと大差ない」

馬子(まご)にも衣装ってか?」

「おお、うまいのぉ。こりゃ一本とられたわい」


 地味に(けな)されているのだが、どうにも当人は意味を理解していないらしい。


「アハハ、あの師匠スケベなんて言われてる! おもしろーい」


 空気を読まずに大笑いをするスケープが気になったのか、善大王は黙って顎で指した。


「……恥ずかしながら、ワシの弟子じゃよ」

「やっぱりな」

「恥ずかしいって、こんなちっちゃい子の裸体同然の姿をみたことですか? ハハハ」

「なんか私まで悪く言われてる気がする……」


 フィアは怒るどころか、(むな)しさや恥ずかしさでげんなりとしていた。しかし、悪く言っているのはこの場の全員である。

 そうした茶番を長く続ける気はなかったのか、善大王はすぐさま話題を切り替える。


「ヴェルギン、話がしたい」

「……ほう、何の話じゃ」

「できれば、あんたと一対一でしたいんだが? ……こっちの相棒に聞かせるのも何だしな」

「ふむ、口外無用ということじゃな。分かった──スケープ、そこのお嬢ちゃんと一緒に出かけてくれんか」

「この裸体同然の子とですか? えーっ……むしろ師匠が行きたいんじゃないんですかー? アハハハ」

「はよう行ってこんか!」


 お気楽な弟子はようやく要求を呑み、困惑しきったフィアを引っ張って外に出て行った。

 ここでようやく場が整えられ、彼は安堵から溜息(ためいき)をこぼす。


「なんだ、あれ」

「本人に悪気がないというのが厄介でのぉ……あれでも《風の月》の優秀な術者じゃよ」

「アレがか……で、引き取った理由もそれが原因ってことか?」

「そういうことじゃな。本来なら追い出してもいいんじゃが、火の国は見ての通りじゃ、あやつに暴れ出されては困る──その上、戦力は喉から手が出る程にほしいときておる」


 ヴェルギンはヴェルギンで苦労しているのだと知り、善大王は乾いた笑いで応じた。


「オヌシの用件はそんなことではなかろう? わざわざ砂漠を越えてくる程じゃ、何か重要な用事があるんじゃろう」

「強いて言えば、その用事は済ませてきた。あんたに会いに来たのは、状況の変化を確かめる為──それと、組織(・・)についてか」


 組織の名が出された瞬間、褐色肌の男は顔色を変えた。


「組織……それがどうしたんじゃ?」

「あんたは知ってたのか?」

「一応は、と言っておくかのぉ。カイトという若人(わこうど)が、その組織とやらに絡まれたことは覚えておる」


 予期せぬ並びに、善大王は興味を抱いた。しかし、好奇心は出過ぎない。


「俺の調べでは、各国にその内通者がいる。光、水、雷……この火の国にもいる、と俺はみているが?」

「……おそらく、オヌシの読みは違えておらんぞ。じゃが、知っているかもしれんが、ワシは軍の総司令になっておる。それを調べる余裕がなくてのぉ」

「そう、か。この国で顔の広いあんたなら、知っていると思ったんだが」

「知っていると言った時には、どうするつもりだった」


 口調の変化に気づき、善大王は静かに、しかし威厳を持って答えた。


「少なくとも、認知はしていた。対応するかどうかは王と協議してからだな」

「今のヴォーダンが、動くとも思えんがのぉ」




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