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──火の国、砂漠にて……。
「ねぇライト、本当に用意できるの? それに、ゲンテイテキなんてひどくない?」
「一つずつ答える。用意できるか……これは間違いなく用意できる」
「なんで?」
砂漠を歩きながら、空色の瞳で心強い恋人を見つめる。
「既に水の国と雷の国に話を通してあるからな。既存の船舶をそのまま受け渡すことで、協力関係構築の高速化を図っている」
「でも、それって王様達がいいって言うのかな?」
「それについても解決済みだ。雷の国では《武潜の宝具》の船が多く発見されている。その中でも技術レベルの近いものを復旧させている……残骸は腐るほどある上、着手する国が二つに増えればそう遠くないうちに戦力は回復するだろう」
船の宝具、というと強力に聞こえるが、その大半は技術的に解析不能なものばかり。その上、聖域に放置されているようなものが多くを占めていると来ている。
だが、流用可能な部品が存在していることを考えると、有効に活用できる資材と言える。ここに火の国が加われば、三カ国で再生が行われることになるのだ。
「次に、限定的な協力にすぎないってことは、俺が最初に言ったことだ。砂漠を越えるのが困難なことは最初から分かっていたしな……まぁ海上戦で連携してくれれば十分だ」
「でも、海の戦ってそんなに大事なの?」
「……ああ、かなり重要だ」
一段と真剣な声色になり、フィアは唾を飲んだ。
「もともと、この火の国を味方に引き入れるって考えはシアンが提案したものなんだよ」
「えっ? そんな話聞いてないよ?」
「ああ、俺に直接通信が来ていたからな」
「えっ……えーっ!? なんで?」
「……どうにも、クオークの開発した技術は広まっているみたいでな。光の国からの通信でシアンが出てきた時は、俺も驚いたものだ」
そう言いながらも、彼は内心で「使用方法を本人に聞いておけばよかった」などと考え、自嘲していた。
「(むぅ……なんかシアンがライトを狙ってるような気がして気にくわない……)」
フィアはというと、全く別方向に怒りを向けていた。
「それで、だ。海が何で重要かについて言っておくぞ」
「えっ? あっ、うん!」
「俺達が航海した時には幸い遭遇しなかったが、闇の国には海上戦の切り札があるって話だ」
「切り札? ……あーっ! 闇の国に乗り込めたら戦争が終わらせられるってこと?」
「(順序をすっ飛ばすなよ……と)」
結局重要な部分を抜けたままに話を進めようとしている少女に、善大王は呆れていた。
「まぁ、そういうことだな。今のところ、奴らの島に乗り込むにしても障害が多すぎる。水棲の魔物もそうだが、現状無敗を誇っている《カルテミナ大陸》がその最たるものだ」
「無敗? 誰か挑んでたんだ」
「お前、世間に関心がなさすぎるだろ……そりゃ誰だって敵本拠地を叩いて終わらせる、なんて単純なことは最初に試すもんだろ。水の国も雷の国も──火の国は知らないが、攻め込んでいるみたいだぞ」
「うんうん、それを倒せたら戦争が終わらせられるってことだね!」
まるで理解する気のなさそうな反応に、善大王はまたもや頭を抱えた。
「うん、まぁそういうことにしておいてくれ」
「さっすがライトだね!」
「(さっきシアンが考えたって言ったはずだがな……。船の譲渡でさえ火の国から戦力を引きずり出す餌にすぎない、って部分はこいつに言わなくてもいいか)」
そう、これこそが水と雷が無茶な要求にも応じると断じた理由だった。
人類軍という見方をすれば、戦力の無償提供も損害にはなり得ない。むしろ、総力戦の際に《火の星》という最強砲台を搭載できる分、圧倒的な利益だ。
火、水、雷……それぞれの軍と《星》が集うことになれば、いくら海上戦無敗の存在であっても攻略は可能だろう。




