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──火の国、フレイアにて……。
「フィア、どう思った?」
「……ミネアもミネアで、余裕がない……と思うの」
「返答として不適切だな」
二人は馬車を使い、首都間で経由できる集落は全て見てきた。
そのほとんどは壊滅的状況で、村そのものが消えている場所さえあるという始末だ。
フィアはミネアの力が足りなかったということを言っているのだが、善大王が気にしているのは、ヴォーダンが何を思ってこのようなことをしたのか、というところにあった。
「火の国に軍隊がないことはライトも知ってるよね」
「ああ、それで即興の部隊を編成したことも聞いている。だが、これはあんまりだな」
彼は火の国のやり方を全て批判しているわけではない。実際、南方は魔物の侵入も容易な海であり、首都がそこの地点に近いというのはかなりのハンディキャップとなる。
だが、集落の住民を首都に集めることは可能であるにもかかわらず、残っている村民などが多くいたということは、王からのお触れが出されていないことが表れていた。
「それで、ミネアとは接触が取れる状況か?」
「……今は海に出ているみたい」
「(事前に打ち落さないといけないのは分かるが、あの海嫌いがよく引き受けたものだ)」
これに関しては素直に感心しているらしく、むしろ彼女の身に何かが起きていなければいいのだが、と心配するほどだった。
「とりあえず王と話してからだな」
「うん」
馬車から出ると、二人は並んで王宮へと向かった。
首都の状態は当時と大きく違わず、数少ない差異は武装集団の比率が増したということくらいだろうか。
そんな彼らとて、白衣の男と露出の多い少女が何者かは理解しているらしく、黙って道を明けていく。《聖極の退魔官》と《大空の神姫》は遠く離れた砂漠でさえ広まっていたのだ。
「善大王だ」
「は、ハッ!」
番兵はかつてのように止めることはなく、すぐさま門を開いた。ケースト大陸が急いているのと同じように、この二人もゆったりと動く余裕を持っていなかった。
そうして謁見の間に到着する頃には、首都に集約された戦力をある程度は把握することになる。
「(装備は全て一級品……水の国も相当なものだったが、あれは量産を前提にした上のものだったが、これは全てが上位の冒険者が用いるレベルだ)」
兵の水の国に対し、火の国は武具といったところだろうか。その技術の発展具合は、戦前と比べれば一目瞭然であった。
「そんなにすごいの?」
「……ああ、というより水の国と型が似ている。十中八九、あの国に武器を供給してたのはここなんだろうな」と、小声で返す。
先を見据えると、玉座に座った状態でフレイア王ことヴォーダンが二人を迎えていた。
「久しいが、元気そうで何よりだ。善大王殿」
「そりゃお互い様だ」
フレイアとライトロードは一時期黒い仲になっていたこともあり、会話に遠慮は見られない。
「それにしても、あの海を突破してくるとは思わなんだ」
「蛮勇ってことでもないさ。ただ、まぁ容易ではないな……フレイア王も挑戦する時は気をつけたほうがいい」
「うむ、心得ておこう──それで、今日は何の用で来られた」
「水の国と雷の国が和平を結んだ、ということを伝えにきた」
「ほう……それで? わざわざ伝えに来たことはありがたく思うが、生憎興味がない。火の国はその二国とは争っておらんのでな」
「俺が伝えに来たのは、国々が繋がり始めたということだ。だからこそ、火の国は両国と協力関係を築いてほしい」




