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「……どういうことよ」
「俺はかつて、《天の太陽》に師事していた。いや、あれは師弟ともいえない……年の離れた兄のようなものだった」
「《天の太陽》って……魔導二課のトップだった人じゃ」とクオーク。
「そうだ。あの人が行方をくらます前、俺は魔導二課を任された。しかし、その時の俺は若かった。俺を置いていった奴の頼みなど聞くかと、天の国を飛び出したものだ」
「それがどうしたっていうのよ」
「お前は俺程に生きていないし、失敗もしていない。どうせお前も諜報部隊を抜けたクチだろ?」
自然と出てきた単語に、エルズは目を細める。
「なんでそこまで知ってるのよ?」
「仮面のムーアとは面識があったからな。お前はあいつにそっくりだ……その技の冴えまでも」
「……」
「そういうことだ。半端者の先輩としてもう一回忠告してやる。もしあの渡り鳥がお前に何かを託したっていうなら、それに従って生きてみるってのも悪くねぇと思うぞ」
「でも、ティアのいないエルズになにが……」
ウルスは俯いた少女の頭をがしっと掴み、勢いよく揺さぶった。
「な、なななにするのよ!」
「いや、なに。あいつの娘かと思うと、憎らしさ余って愛らしくなるもんだ。よし、しばらくは俺のパーティーで引き取ってやる」
「はぁ!?」
「ウ、ウルスさん! それっていいんですか!?」
「るせぇガキ共! 同じ半端者同士まとまってたほうが、色々と都合がいいだろうが。それにクソガキ、お前は魔女なんて卦体な悪名がついてんだ。俺や渡り鳥みてぇな奴がついてねぇと、厄介事に巻き込まれるぞ」
軽い調子だが、これは実に大きな問題であった。
エルズが今まで普通に生活できていたのは、ある種ティアのおかげであった。冒険者ギルドや金銭関係の繋がりならばまだしも、日常的な関係において悪名は酷く悪い作用をもたらす。
そうした悪名持ちは有名な冒険者のパーティーに加われば、問題が一挙に解決するかといわれると、否といわざるを得ない。
《放浪の渡り鳥》という存在はあまりにも異質で、あまりにも英雄的であったが故に、その影であるエルズさえも日向へと引き込むほどの力を持っていた。
だが、そうではない者が彼女を引き取るとなると、魔女という悪名が持つ効力までも受け入れるということになる。
「オッサンらがどういう目的で動いているかは知らないけど、エルズを引き取ってもいいことはないわ」
「望むところだ。俺としても面倒な関わりは減ってくれたほうが結構。それに、あのサイガーとかいう若造の話を聞く限りじゃあ、俺達はでかい戦場に連れて行かれかねない──となれば、だ。クソガキのような実力者を引き抜いていたほうが、生存率は高まるってわけだ」
「……エルズにそんな命令は出てないけど」
「お前だって仮にもランクⅣ冒険者だ。その時になったら急に召集がかかるだろうよ。だったら、予告を受けてから悠々と向かうほうがいいとは思わねぇか?」
意見としては正論な上、エルズからすればメリットの多い提案だった。
《選ばれし三柱》という特異能力を持つ人間において、パーティーが生存率に影響すると思えないかもしれないが、メンバー全員が優秀であればその例には当てはまらない。
さらに言えば、彼女は支援型であるからして、単騎での戦闘は非常に危ういものではある。前衛を支える者がいなければ、本領が発揮できないのだ。
エルズという駒を最大限に活用する為、駒の喪失を防ぐ為、ウルスは自分でその役割を引き受けた。
「……エルズはいいけど、クオークは大丈夫なの?」
「えっ? あーハイ! エルズさんは悪い人じゃないので、大丈夫です」
「と、いうことだ。これからよろしくやろうじゃねえか」




