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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
666/1603

6s

 善大王がギルドに介入……どころか、冒険者達を結束させるという事実は、ウルスに驚きを与えていた。


「世界は想像以上に動いていた、ということか」

「ええ、その様子では水の国と雷の国が争っていたことも、知らないのでしょうね」

「……まるで時の旅人だな。未来にでも来たような気分だ」


 時代の変化を確かめつつ、彼は本題に移った。


「それで、闇の国が北東部に進入したのもそうした影響によるものか?」

「……はい。こちらの調査によりますと、彼らの目的は《紅蓮の切断者》──あなたのようです」

「俺だと? まさか、戦争に関わろうともしない隠居者(ロートル)に何のようがあるという」

「あなたの特異性を恐れているのですよ。そして、関わらないからこそ動きが読めない……それを警戒しているからこその、排除かと」


 ウルスの抹殺作戦より少し後のことになるが、組織もまた想定外の存在(ガムラオルス)によって計算を狂わされた。そういう意味で考えると、事前の対処は相当に重要なことなのだろう。


「奴らはどのルートから、俺の居場所を知りやがった」

「かの国については全くが謎に包まれていますからね。ですが、あなたが村に戻ったという事実を知る者がいったい何人いるのでしょうか」

「チッ、分かった。お前の企てにまんまと乗ってやろうじゃねえか」


 彼は冒険者ギルドに少なからず疑いを持っていた。だからこそ、こうして直接確認していけば、答えが明らかになるとさえ思っていたのだ。

 だが、サイガーの口にした内容は言われた本人が一番理解していたことであり、その上で疑えば三人の後輩冒険者が自然とその候補に当てはまる。


 であるならば、可能性を一つに狭めざるを得ない。相手の捜索方法が、当人の居場所を直接探り当てる類のものだと。

 だからこそ、ウルスは企てに乗ると──冒険者として戦争に参加することを選んだ。前者後者のどちらかは分からずとも、村から離れていれば自身のもとに引き寄せられるのだから。


「そう言ってくれることを期待していましたよ──では、ここで改めてお話できます」

「なんだ、まだ何か隠してたってことか?」


 代表は黙って頷き「《放浪の渡り鳥》ことティア氏が消息を絶たれています」と、ギルドが揺るぎかねない発言をこぼした。


「あいつが……? 死んだのか?」

「それも含めて不明です。《幻惑の魔女》曰く、戦闘の最中に忽然(こつぜん)と姿を消したと」

「魔女の方とは連絡が取れているのか?」

「はい、現在は本部に滞在しているとのことです」

「……本人から聞いた方が、状況は分かりそうだな」


 ティア捜索に入ろうとするウルスに対し、サイガーは制するような動作で彼を押し止め、話はまだ終わっていないとばかりに再開した。


「重要なのは、彼女が不在の今……その代理となる人間が必要となる、ということですよ」

「それを俺にやれ、って話か? バカ言え、もっぱら英雄視されているあいつと違い、俺は旧世代の……今では無名同然の冒険者だ」

「金色の勲章、そしてあなたの実力、それらで十分に旗印となりえます」


 最終ランク一歩手前、そういうと中途半端に聞こえなくもないが、この高見に至った者で現職の人間は既に一人もいない。

 盗賊狩りという悪習でランクをあげられていた時代ならばまだしも、現在の牛歩の如く鈍足な昇格では、あまりにも遠い位なのだ。

 だからこそ、唯一性が保たれる。到達者がそうであったように、最高位というものはそれだけで価値やエピソードが付加されていくものなのだ。


「……俺は飽くまでも一介の冒険者だ。前にも行ったように、冒険者を率いる気なんてねぇよ」

「で、あるならば──《紅蓮の切断者》、あなたには自由を与えます。どのように戦うか、どこに行くか、それは自身の判断で決めてください」

「当然だ」

「その代わりといってはなんですが、冒険者ギルドが有事となった際には、なるべく救援を優先してください」


 望むところではない提案だったが、彼は承諾した。

 当時のサイガーであれば、このような妥協案は間違いなく打たなかった。その変化を誘発したのがただの反省などではなく、善大王によるものだと分かったからこそ、ウルスは信じた。

 冒険者の革新が今であるならば、過去の人間として道を踏みならすとしよう──身分の偽装に使っただけとはいえ、冒険者の自覚まで失ってはいなかったのだ。


「では、あなたには冒険者パーティーを組んでもらいましょう」

「……なんのことだ」

「音信不通になられては困りますからね。監視する役割を一人つけます」

「そっちで用意した人間か。ザコを寄越すんじゃねえぞ」


 割と真剣に言ったウルスに対し、代表は「ご心配はありません」と笑いを含めながら返答した。


 机に置かれていたベルを鳴らすと、扉をあけて一人の冒険者が入ってきた。


「なるほど、そういうわけか……」

「相棒としては十二分でしょう?」サイガーは笑う。

「バカ言え、半人前だ──だが、上等だ」


 そうして、切断者は再び天の術者(・・・・)と組むことになった。

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