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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
665/1603

5s

 ──水の国、デルタにて……。


 第五部隊の侵略を退けたウルスだったが、彼はあの襲撃に不可解さを覚えていた。

 北東部には主要地点とされる場所は存在せず、もしスワンプを攻略できたとして、デルタなどの都市を襲撃するには少々手間がかかる。


「(そもそも、《火の月》が味方になってたっていうなら、ここを直接攻め込むことだったできたはずだ……何故、あんな田舎を襲った)」


 それを確かめるべく、彼はここに来ていた。

 当人達から直接聞けばそれが一番早かったのだが、気付いた時には既に手遅れ、彼らの足取りを掴むのは困難になっていた。

 もちろん、デルタに訪れたからといって確かめられる確証はない。だが、直感として何かしらの情報が得られると感じ取っていたのだろう。


 支部に足を踏み入れると、せかせかと動き回る職員達の姿が目に入る。長らく外の状況を確認していなかったウルスからすれば、この状況はなかなかに奇妙なものだっただろう。


「(まささ、ここにもきたのか……?)」


 疑問を解消すべく、近くを通りがかった職員を呼び止め、自身の手の甲を見せる。


「《紅蓮の切断者》だ。なにが起きている?」

「ぐれ──ご本人ですか?」

「……本人だ」


 疑うのも当然だが、彼が見せた証は金色の宝石である。最高ランクの一個手前、虹色の宝石に一歩届かなかった勲章だ。

 とはいえ、ここに至ることができたのは件の魔物討伐を彼一人が行った、という事実が認められたからこそ。ウルスからすれば、不名誉な証とも言える。


「なるほど……そういうことでしたら、代表がお待ちです」

「代表……? いや、軽く教えてもらえればいい」

「そうは行きません。代表はあなたを待ち続けていたのです」


 都合が悪いことに別件と噛んでしまった、と厄介に感じた切断者だったが、すぐにこれが好都合であると思い直した。


「(待っていた理由があの襲撃に関与している可能性も捨てきれねぇか……)」


 ウルスは頷き、ギルド職員の後に続いた。

 北東部の統括支部に代表(サイガー)が来訪しているのは妙だが、闇の国が軍隊を率いてこの地域に進入したというのだから、辻褄が合わないかと言われるとそうでもない。


 支部長室の前に到着すると、職員は頭を下げた後にその場を去った。

 最後まで案内しないのは不親切のようだが、彼はその理由がこの扉の奥に存在すると解釈し、部屋の中へと足を踏み入れた。

 そこにいたのは、東方支部代表であるサイガー、ただ一人だけだった。


「東方全域の権利はお前にある、ってことくらいは俺も承知だ。だが、一応聞いておく……ここの支部長(ボス)はどこだ?」

「彼は別件で奔走(ほんそう)していますよ」

「……ギルドの乗っ取りを本格的に始めたわけか」

「いえ、それは一時取りやめですよ。今は冒険者ギルド──冒険者全体が、地域の垣根(かきね)を越えて協力しています」


 まるで夢物語のような話に、ウルスは呆れて物も言えないといった様子で視線を逸らした。


「状況が切迫して気でも触れたか」

「善大王様──《虹への到達者》がそれを実現させたんですよ。我々は彼が作った一本の架け橋を、世界へと広げているだけにすぎません」


 善大王の一件以降、東方の冒険者ギルドは本格的に結束を強めた。その先駆けとして行われた南東部との協議は、冒険者を通じて波及(はきゅう)していき、ついには九つの地域全てが繋がることになった。

 実質的にはバラバラでまとまりのなかった集団が、今では一個体の組織として確立し、魔物や闇の国の脅威から人々を守る機構となったのだ。


「善大王が虹の……? まさか、あいつは既に引退──」


 そう、到達者が引退した後の動向は、誰も知らなかった。冒険者を引退理由した理由でさえ、誰も知らないのだ。

 故に、彼が善大王に(そう)なるべく、最高位の栄誉を返上していたとしてもおかしくはない。


「あのお方は変わっていませんでしたよ。そして、善大王として素晴らしい人でした」

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