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追加の情報も含め、会議では各国の状況が整理されていた。
火の国は首都防衛を最優先としており、現状では後回しにすべき国として認識されている。
水の国は異様な速度で進む冒険者ギルドの結束、及び正規軍の戦力消費の少なさから、今後も集中的に侵略が行われることになった。
光の国と天の国については、魔物防衛の最前線であると同時に、遠い大陸であることも考慮して放置という方針で固まっている。……武力侵略という意味では。
「──雷の国だが、命令を出した二名が暗殺に失敗した」
「あの男が出たというのに、失敗ですか」
「トニーさんは彼を過大評価しているんですね」
吸血鬼は目を逸らし、「その二名の処罰は」と消去の方向で話を進めた。
「……奇妙だが、奴らが雷の国に気付かれたような気配がねぇんだよ。あの《皇》がなにを考えてるかは知らねぇが、国にバレてねぇっていうなら、潜ませておいて損はねぇと思うがなァ」
「妥当ですね。彼らだって、自分の失敗が気付かれていないとは思っていないでしょうし、組織の寛大さに感謝することでしょう」
「そんなんじゃねえよ。あいつらは最終段階において、重要な駒になる。こんな小競り合いの段階で切り捨てたところで、また補充が取れるとも限らねぇ」
「黒は優しいですね」
今にも殴り合いに発展しそうな空気が満ちたが、ライムが挙手をすることでそれは一旦の収まりを見せた。
「第五部隊が失敗した作戦については、どのように対処しますの?」
「……《火の太陽》の抹殺か。できることなら早めに始末しておきてぇが、雷の連中があのザマだ、また別の連中を忍ばせるのは容易じゃねえだろうな」
「では、ディード様には撤退命令を──」
「親父が推したからこそ利用したが、使えねぇことが今回で確定した。あいつは処分だ」
この発言には、ライムを含めた三人が反応を示した。
「わたくしは、あの殿方を買っていますわ」
「ガキ、てめぇの意見がこっちでも押し通るとは思わねぇことだ。勝手になにを企もうとも、それは見逃してやる──だがなァ、組織のやり方に口出しをするっていうなら……」
「あら、黒様は器量のあるお方だと考えていましたが、ずいぶんと狭量ではありませんの?」
「黒、巫女様の扱いは忘れていませんね?」
「……チッ、わーったよ。親父が何考えてこんなガキを使ってるかは知らねーが、道具っていうなら消すわけにはいかねぇな」
「はい」
気性の荒い黒ではあるが、彼の立場は飽くまでも夢幻王ダークメアの代理人でしかなく、彼の意向に反した行動はとれない。
それをうまく利用した白は、穏やかながらに含みのある笑みを浮かべ、守り抜いた巫女の方をみる。
「私としては、巫女様があの部隊長に何を期待しているのか、そちらの方が気になりますがね」
「ただの戯れですわ」
それが本意ではないことを理解し、「そうですか。余計なお節介でしたかね」などと言い、会話を打ち切った。




