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状況の確認は進められ、今後の策を話し合い始めた頃……ついにその男は姿を現した。
「遅れたな……今到着した」
斑な髪の男に視線が集まるが、当人は悪びれる様子もなく一つだけの空席に座り込んだ。
「貴様は今回の作戦に参加しなかったな……そして、この集まりにも遅れた」トニーは憤っていた。
「おれに命令は下されていないはずだ。善意で参加するほど、こちらも暇ではない」
彼の立場は組織でも異質であるからか、それ以上に叱責や追及を行う者はいなかった。
だが、一人だけ例外が紛れ込んでいた。単純に、彼の存在自体が驚きであるように、あり得ない存在が目の前に現れたかのように思っている者が。
「黒様、この男は」
「……キリクには話してなかったか。こいつはスタンレー、盗賊ギルドに所属する盗人だ」
この場で、ようやく二人は互いの立場を理解した。
「盗賊ギルド……? お前は《盟友》の兵として──」
「おれはおれの思うとおりに動くだけだ。盗賊ギルドも、《盟友》も、この組織でさえ、利用できると思ったからこそ所属しているだけに過ぎない」
この発言にはキリクのみならず、トニーの怒りを再燃させるだけの効力が含まれていた。
「どうやら、立場を弁えていないようだな」
「おれは自分の立場を最初に表明したはずだ。命令があれば従う、そして組織の情報は自由に利用する」
「……黒様、あの《風の太陽》を呼び寄せたのは、おそらくこの男かと」
反撃とばかりに、キリクは黒に追加の情報を提示した。仮面によって感情は探れないが、相当に激昂していることだろう。
「根拠はあンのか?」
「《風の太陽》は私の能力を知っていた。過去に戦っていたならばまだしも、あの男と刃を交えたのはあの場が初めて──つまり、何者かから能力の概要を聞いていたとしか思えない」
「なるほどなァ……それがお前の言ってた、火の国が絡んでるかもしれねぇっていう話か」
スタンレーと相見えたこと、ガムラオルスが彼の名を口にしたこと、これらを曖昧な表現にして伝えていたのにも理由がある。
あのガーネスでの戦い、それ自体は組織の思惑の介在しない、《雷光の悪魔》としての行動だったのだ。
故に、この場で言うべきではないと黙っていた。また、この戦いで消耗、作戦への参加が遅れたことも相成って、このような状況でもない限りは隠し通すつもりだったのだろう。
「オイ、盗人……どう申し開きするつもりだ? オレが多少の自由を認めてやったのは、組織に反旗を翻させるわけじゃねえんだがなァ」
「あの男はおれの駒にすぎない。だからこそ、障害となりうる存在の情報を教えただけだ──おれが戦ったキリクは冒険者だった、それが全てだ」
これはただのうまい返しにとどまらず、事実を元にした発言だった。
それは他でもないキリクが一番自覚しており、正体を知らないのはお互い様であった。
「おれがあの男に伝えたのは、《放浪の渡り鳥》の所在だ。二名の実力者を排除できたということは、組織にとっても好都合だと思うが」
態度や行動に問題はあるとはいえ、彼の言い分は全くもって正論だった。
この戦いで二人の《選ばれし三柱》を除去できたという事実は、後々確実に効いてくる。さらに、《放浪の渡り鳥》が冒険者ギルドの主力であり、人々の結束を加速させる存在であることを考えると単純な数値以上の活躍だ。
「今回は特別に手打ちにしてやる。だがなァ、出過ぎた真似はしねぇことだ……消されたくなければな」
「貴様程度で、このおれが消せるとでも考えているならば、とんだ笑い種だ」
黒とスタンレー、二人の男は一歩も退くことなく、互いの主張をぶつけ合っていた。
そんな状態に苛立たず、むしろ愉快そうにしているのは白とライムくらいのものだった。




