停滞に抗う者達
──雷の国、倉庫街の館にて……。
「このような場所に集まるというのも、愉快なものですわね」
「……ガキは黙ってろ」
周囲は倉庫しかない場所だが、館の内部はメンテナンスが行き届いており、質も貴族が別荘として利用できる域には到達している。
そんな場所に集ったのは、組織の中核メンバーとも言える者達だった。
この場の代表として黒が上座に掛け、白、ライム、トニー、キリクと続く。
彼らが同時に攻め込めば、一国を落とすことは造作もないだろう。ただし、世界の破滅が狙いではない以上、そのような安易な手は打たない。
「彼はまだ来ませんか。盗賊側の状況を聞きたいので、遅刻ならばいいのですが」白は言う。
「一応あいつにも召集は掛けてある……来る気があんなら、そろそろ来やがるだろうよ」
「あの男ですか、私はこないと思いますが……もしそうであれば、粛正の任は私が」
「トニー、早計な行動を避けろ。それに、今のお前じゃあいつを消せるかさえ怪しい」
この場の二人、吸血鬼と《雷の月》は死に体とは言わずとも、本来の実力を発揮することのできない状態ではあった。
トニーは未だ肉体修復の最中であり、キリクは《風の星》によって負わされた傷もそうだが、連戦に次ぐ連戦で消耗が加速しているように見える。
「……お前らをこの場に集めた理由は、分かってんだろうな」
「ラグーンとフォルティス間の争いを防がれたこと、についてですか」
「ああ、だが少し違うな……どうしてお前らほどの使い手が敗北したか、だ」
今回の作戦に動員されたのは、組織内で上位の実力を持つ三人だった。
本来であれば、この人数だけで開戦を確定させるだけには十二分であったが、結果としては成されなかった。それどころか、下方修正した《選ばれし三柱》の抹殺という任務でさえ、誰一人達成できなかった。
事前情報からみれば、このような状況に陥ること事態があり得ないことであり、中枢メンバー内に裏切り者でもいない限りは成立しない──という程に奇妙な状態であった。
黒としては、まったく負傷していない白こそが裏切り者であると考えていた。極端な話、彼以外のメンバーはハッタリでしかない。
「(いつかの事件の時も、こいつは雑兵の肩を持ちやがった。今回の大敗がこいつの自由行動によって起こされたものだとすれば、消す他にねぇな──親父の助けがない今のうちに)」
しかし、彼の期待──疑惑は、予期せぬ形で覆された。
「黒様、我々の妨害を行ったのは《闇の太陽》──と、思われる者です」
「あの小娘か……謀反者の娘ってことだが、あいつの実力はたかが知れてたんじゃねェのか? トニー、それはお前が俺に報告してきたことだったよなァ?」
「……その女はエルズと名乗っていました。ですが──」
「情報と違い、子供とは思えない体格だった。いや、アレが同一人物とは考え難い」
共通の存在と戦っていたからか、キリクがトニーの発言に割り込む形で語った。
「……幻術じゃねえのか?」
「いえ、間違いなく実体を持っていました。それ以上に、あの女はまるでこの時代の人間ではないような口振りを──吸血鬼と戦ったことがあるようなことを宣っていました」
「別の時代……? なんだそりゃァ、未来の世界から助けに来たって言うのか?」
「いえ、本当の《闇の太陽》は戦いの最中に消え、代わりに女が現れました。……可能性としては、過去に飛ばされていた者が戻ってきたと考える方が」
吸血鬼は実質的に袋小路であり、種族としての繁栄が未来で行われているとは考えずらい。その上、エルズは自身の出自を知っている様子であった。
吸血鬼の歴史を知るトニーからすれば、彼女が過去にでも行かない限り、これを知ることはできないと断じていたのだ。
「今後の標的は、その女か──いや、お前達から聞く限り、オレが直々に出た方がよさそうか」
「いえ、《闇の太陽》と思われる女の抹殺は完了している──むしろ、問題は《風の太陽》の方かと」
「……山猿の小僧か、奴は山脈に戻ったという報告を聞いている」
エルズが殺されたという事実を知り、吸血鬼の顔に焦りのような感情が滲んでいた。しかし、口には出さず、必死に平静を装っている。
「あの男は早めに消しておくべきかと。今回のように、奴は綿密な計算を無責任に壊していく」
「……いや、放置でいく。幸い、あの小僧は《風の星》を連れて山に戻りやがった。下手に刺激して山の連中が参戦しやがったら、余計に面道事が増える」




