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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
660/1603

10

「……むにゃ?」

「おっ、起きたか」


 フィアは目をこすり、周囲の状況を確認していた。

 座り心地のよい椅子、動く風景、振動の乏しい空間──件の馬車とは比べものにならないほど上質な環境。


「え!? なんで馬車に乗ってるの?」

「ハーディンから出してもらった。ついでに、こいつも」


 朝日を浴び、袋は黄金色の光を放っていた。


「おぉおおおっ!」

「軍資金がこれくらいあれば、しばらく生活には困らないだろう」

「すっごーい!」

「次は不足しないように、ちゃーんとやりくりするからな」

「うんっ! するする!」


 無邪気に喜ぶお気楽姫から視線を逸らし、善大王は外を眺めていた。


「(実際は相当数の紙幣も受け取っているが、それは言わない方がよさそうだな)」


 今まで《皇》として動いてきた彼だが、今回はそのしがらみが存在していない。だからこそ、ラグーン王への突き出しをしない代償に、莫大な量の金銭的要求を行ったのだ。

 ただ、本件の目的をきちんと理解していたフィアは、これを指摘せずにはいられなかった。


「それで、あの人はどうなったの?」

「ん? 見逃したぞ」

「えっ、なんで?」

「金もらったから……それと、ヒルトちゃんが可愛そうだから」

「だから……って、そんな軽い理由で?」


 まったくもってその通りだが、彼は悪びれる様子もなく相棒の額をつついた。


「あいつがクロってことはもう分かった。それに、組織とズブズブでもないこともな……そうなると、ダーム商会を叩く方が得策だ」

「でも、あの人は怪しすぎるからなにもでないって……」

「事情が変わったってことだ。物事を頑固に捉えるのはよくないぞー柔軟に、かつ広い視野を持って事に当たるのが聡明ってもんだ

「わけわかんない……」

「ま、いずれ分かるさ」


 かなり説明を省いていたが、彼の考えを要約すると、こうなる。

 ダーム商会の者は和平妨害を行う場面で、あっさりと退いた。あの場面はなんとしてでも阻止すべきであり、間に合わなかったハーディンとは状況も違うのだ。

 対するハーディンは組織の命令に従い、善大王の排除を優先した。その上、保身を図れる場面でさえ、組織を裏切るようなことはなかった。


「(もし、組織が裏切りを許さないものだとすれば、会長の保身は不自然だ。だが、あの会長が組織にとって重要な人物だとすれば──継続的に組織の意志となる存在であれば、辻褄が合う)」


 そう、あの男はとてつもなく怪しい言動をしながらも、組織に辿りつく痕跡を残していない人間なのだ。《天の星》という規格外の力があったからこそ判明したが、本来なら渋々容疑者から除外しなければならない者だった。


「(それにしても、組織が俺をこっちに呼び寄せた理由は、一体なんなんだ?)」


 国を()ってから長らく経つが、シナヴァリアの報告にそれらしいものはなかった。もしも何か小さな異変でもあれば、彼は敏感に察知し、探り当てたことだろう──もちろん、それ以前に宰相の方が気付くだろうが。


「ねね、ライト!」

「ん?」

「明日はいい宿に泊まれるかな?」

「……節約しようという意志はないのか?」

「えへへ」


 お気楽な恋人の甘え攻撃を軽く受け流し、善大王は今後のことを考えるべく、目を閉じた。



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