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黒板に文字を書いていき、善大王は振り返る。すぐに書いたにしてはとても綺麗で見やすい。配置などもよく考えられている。
「まずは、現ミスティルフォードで最も使われている《導術》に関してだ。これはさっきも言ったとおり、術者の才能が大きく影響する」
「才能って、下手とかうまいとかってことですか?」
「まぁ、それも少なからずはあるが、もっと根っこの方だな。うむ、術を使うにおいて一番大事な、属性についてから話したほうが早そうだな」
またもや凄まじい速度で文字を刻み、善大王は一列目を指さす。
「属性は七つ、これについてはもう勉強しているだろう。……じゃあ君、言ってみてくれるかな?」
指名された女子生徒は立ち上がり、自信満々に答える。
「火、水、風、雷、光、闇、天です」
「正解。よく勉強できているね」
照れくさそうにした女子生徒は善大王に促され、座った。
「この属性というのが、才能だ。人は生まれつき、なにかしらの属性を持っている。一般的には遺伝……お父さんやお母さんから引き継ぐとされている」
善大王は一度区切り、指先から黄色の光を放つ。
「術もこれと同じ、七つの属性に分かれている。才能、つまり合致した属性以外は基本的に使えないわけだな。光属性使いのみんなじゃ、火属性は使えない、そう考えていい」
男子生徒が手を挙げ、善大王は発言を許す。
「僕は光属性だけじゃなくて、水属性も使えるんですけど」
といいながら、その男子生徒は指先から黄色い光を出し、次は青い光を出した。
「今言った通り、お父さんとお母さんから引き継ぐわけだけれども、それがひとつとは限らない。君みたいに複数の属性を持つ人も少なからずいる」
注釈するように、善大王は言う。
「だが、実戦で使えるような強い属性は普通ひとつとされている。ついでに言うと、何種類も属性を引き継ぐと、どの属性も使えない人が生まれることもあるそうだ」
これは雷の国で前例が確認されている。いろいろな国の人間が交わり合う国なだけあり、七色や五色の属性を使える存在が生まれるものかと、最初は思われていた。
しかし、それは違っていた。
属性に割り振られる総合割合は初めから決まっており、十割を七分割すれば大抵の属性が発動すらできないレベルにまで落ち込む。
対属性ならば互いに打ち消し合うこともあり、多色使いが強いという話もそこまで聞かない。
「じゃ、まぁとりあえずは属性の特徴から説明していこう」
善大王は二行目を指さす。
「まずは火属性。属性が持つ特性は異常、とされている。命中させた相手を燃やして、継続的なダメージを与えるのが得意な属性だな。属性色は知っての通り、赤色だ」
「善大王様、用語がよく分かりません」
「うむ、そうだな。まだ術の用語も習っていないな。じゃあ、それぞれを軽く教えておこう。他のクラスよりも一歩前に進むことになるぞ」
善大王の言葉にクラス内が色めいた。
「まず、属性色というのは各属性が持つ色、そのままだな。虹の七色とも言われているが、これを知っていれば相手がなに属性使いなのかがすぐに分かる訳だな」
期待する生徒達に答えるように、善大王は続ける。
「特性、というのは属性が持つ代表的な効果だ。火であれば相手を燃やし、熱さを与えることだな。水属性じゃ熱くなったりしないだろ?」
納得するように頷く様子を認め、善大王は満足げになる。
「この特性というのは、属性だけではなく、術にもある。術の場合は攻撃性質っていうんだが、火属性なら遠距離攻撃系──砲弾、銃撃、弓などを模した攻撃用の術が多いって覚えておけばいい」
そこまで言った時点で、善大王は手元においた砂時計をみる。
「とりあえずはここで小休止を入れようか」