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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
659/1603

9

 ──アルバハラの屋敷にて……。


 ハーディンと共に屋敷へと戻ってきた善大王は、何気ない調子で一つの疑問を解消しようとした。


「フィアは怒っていたか?」

「いえ」

「ならいいんだけどな」


 少女探知の技能を使い、彼は質問することもなく彼女の元へと向かっていく。屋敷の主も、そんな《皇》の後ろに続いていた。

 そうして辿りついた先は、ヒルトの部屋だった。


「(いや、予測はしていたが……恥や外侮がいぶもなくこの部屋に押し入るなんてな──いや、こいつが勧めたのか?)」


 一度はそう考えた善大王だったが、すぐに違和感を覚える。


「(いや、あの兵士はただの護衛のはず……そいつがこの部屋に通すというのはおかしくないか?)」


 答え合わせをするように扉をあけると、そこにはかつて見た光景が広がっていた。

 フィアとヒルトは同じベッドに入っており、ソファーで眠そうな顔をしたチャックは侵入者に気付き、不格好な戦闘態勢を取っている。


「フィア、なんでそこにいる」

「いやいや、引きこもりのフィアちゃんはもう寝てますよって。言っても聞こえませんよ」

「……なら、お前が答えろ」

「いやー、僕が交代として来たときにですね、この引きこもりのフィアちゃんが離れの倉庫で泣き叫んでいたもんですからね、まぁ知り合いだしかまへんかーって、ここに連れてきたってわけですよ」


「(やっぱり喚いていたか……ん?)」

「そんで善大王さん、今日はどんなようでっかー……って! ハーディンさんっ!? ──いやはや、ヒルトちゃんが寂しそうなもんで、同年代の子がいたほうがいいかなーって思ったわけですよ! はい」

「いえ、それは構いません」

「おーっ! さすが旦那! 心が広いもんで……ありがとうございますやでほんま、ヒルトちゃんからしたら」


 そのヒルトが凄まじく寝苦しそうな様子であるからか、とても疑わしい判断である。……とはいえ、肝心のフィアが黙って寝ていることは、善大王からすれば良好な状態だった。


「ちょっと席を外してくれないか? ハーディンと話がある」

「ぼかぁ構いませんけど……いいっすかね?」

「はい、部屋の外で警戒を続けていてください」


 愛想のいい笑いを浮かべると、坊主頭は部屋から出て行った。


「あいつは事情を知っているのか?」

「いえ、娘の護衛を任せているだけに過ぎません」

「なら、部屋の外なんて近い位置じゃなくて、もっと遠くに連れて行くべきだと思うがな」

「むしろ、我々が地下に行った方が手っ取り早いかと」

「あんな武器庫に連れていけるか……この場の方が、両者の弱点があるから理性的に話せる」

「あの姫君が弱点、と?」

「安心しろ、俺は幼女大好き人間だ、ヒルトに手を出したいとは思っても殺したいとは思わない」


 さりげなく恐ろしい発言が行われているのだが、当の父親については安心感を与える為の発言と捉えていた。

 ──無論、彼をよく知る人物であれば、これが冗談の類ではないと分かるのだが。


「さて……改めて話し合おうじゃないか」

「脅しですか?」

「はは、俺はそんなに嘘をつかない人間だ。組織につくといったところで、ヒルトを殺したりはしない……ただ、一応確認を取っているだけだ──娘の前でも、同じように言えるかを」

「答えは変わりませんよ。私は保身する為ならばなんでもする……臆病者ですから」

「はぁ……分からねぇ奴だな。俺は聞かないということにすることだってできる。警備軍のある男が未だに現職についているのも、俺がそういう人間だから」

「善大王様の恩赦を理解できないほど間抜けではありませんよ」


 この返答を聞いた時点で、ハーディンの運命は確定した。

 もし、嘘でも組織との関わりをやめると言えていれば、彼はラグーン王に保護を要請していたことだろう。

 しかし、こうも強情であるからには、口に出していないなにかしらの関係を見出さずにはいられない。


「…………はぁ、仕方ない奴だ。わーったよ、可愛い幼女に免じて、ここは黙っておいてやる。ただなぁ、俺に手出ししようとするなら、相応の覚悟をしておけ──次からはお前に警戒して動くことになる」

「どういうつもりですか?」

「あ? いま言った通りだよ。お前をラグーン王に突き出すことは簡単だが、それをすればヒルトちゃんの今後にも影響が出る。ただそれが気にくわないだけだ」


 この《皇》は気でも狂ったのではないか、といった様子で直視していたが、少女愛好家の《皇》は歪んだ欲望による真っ直ぐな視線で返した。


「組織があなたを排除しようとする理由が、分かったような気がします」

「存外、俺みたいなのを消そうとする辺り、いい組織なのかもしれないな」


 自分の立場を弁えた上での皮肉に、富豪は笑みをこぼした。



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