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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
658/1603

8

 勝負が決したのを確信したのか、善大王は歩きで標的の場所まで向かった。

 そこにいたのは、鏡面のヘルムという警備軍の兵装……に、黒いポンチョという組織の人間を意味する装備を纏った男だった。

 体格からみて、その人物が男であることは間違いなかった。いや、彼が性別を判断できたのは、相手が何者なのかを理解していたからであろう。


「お前が死んでいないということが、答え合わせだ」彼は見下ろしながら言う。

「……情報が出回っているだけ、かもしれないぞ」

「俺はこいつを一度たりとも使っていない。それに、俺がここに銃を納めていることを知っているのは、お前くらいだろう?」


 男は観念したように、仮面を外した。


「よく、分かりましたね」

「富豪が全員集まるような場に、お前だけきていないのが奇妙だと思っていたんだよ。しかし……よりにもよって、お前が警備軍として前線に出ていたとはな」


 ハーディンは肩を竦め、「組織の方についてではなく、警備軍の方を気にかけますか」と意外そうに言った。


「ああ、組織が有力な人間と接触を取っているのは知っている。むしろ、銃器のメンテナンスができる数少ない人間を戦場に駆り出す雷の国の方が、よっぽど不可思議だ」

「私が自ら志願したのですよ。組織の命令によって」

「お前がそういったからには、知らなかったじゃあ済まないな──かつてお前が言った内通者とは、お前自身のことだったのか?」

「……はい」


 善大王は眉間にしわを寄せながらも「組織は一枚岩ではない、ということか?」と理性的な声で問う。


「その通りですよ。さすが善大王様」

「詳しく言うことはできるか?」

「はい」


 彼は立ち上がると、持っていた武器を地面に投げ、話し始めた。


「組織には三つの──いえ、二つの派閥が存在しています。あなたをこのガルドボルグ大陸に呼び寄せたのも、《不死の仕事人》を敵軍の偵察につけることも、こうして暗殺の命令を出したのも、本流ともいえる派閥の思惑です」

「そこまでの事情を知っているということは、お前は関わりが深い人間なのか?」


 自嘲するように笑ったハーディンは「まさか、重要な役割を命じられたからこそ、それに気付いただけに過ぎませんよ」と言い放った。

 事実、彼の役割は善大王の知る誰よりも大きく、《皇》の封じ込めは人類にとって最大の不利益といえる。


「……まて、俺を大陸に呼び寄せたってことは、ケースト大陸で何かが行われるということか?」

「言ったでしょう、私は命じられただけにすぎないと。どういった思惑があるかについては……」


 納得しかけた善大王だが、彼は根本的な問題を忘れてはいなかった。


「俺を排除しようとした理由はなんだ? 本来なら、和平前に俺を消すべきじゃないか? それが終わった後ではもはや手遅れとしか思えんが」

「あなたの手が早すぎただけのことですよ」


 釈然としない答えに、彼は困惑し始めていた。


「(組織の規模は知れないが、おそらく俺を止めることができる程度の奴はいるはずだ──あのスタンレーがそうだったように。だとしたら、どうしてハーディン一人に任せた? 本当に、こいつだけなのか?)」


 彼は知らない。かのラグーン侵略戦の際、組織でも屈指の実力者である二人が、彼の()によって翻弄されたことを。うち一人に関しては、彼女の手によって致命傷を負わされたといっても過言ではない。


「一応聞いておく、お前はどちらにつくつもりだ?」

「私は組織の側につきますよ」

「ダーム商会のあの男が組織に通じている、といっても同じことを言えるか?」


 さすがのハーディンも、これには驚きを隠せなかったようだ。

 彼が組織の同士であると分かったからではない。善大王がそれに感づいていることにだ。


「彼がボロをだしましたか?」

「こっちも情報通なものでね、あの御仁にミスはないぜ」

「……さて、どうしたものでしょうか」

「それはこっちの台詞だな。ここまで語ってくれたからには、お前はてっきり折れてくれるものと思っていたが──属性変化が、それに関係しているのか?」


 そう、それこそが彼にとって最大の疑問点だった。

 ハーディン、その娘ヒルト、この両名が明らかに通常とは違う方法で属性を変化させたのは紛れもない事実だ。

 変化した属性を遺伝して生まれた、と考えるとヒルトの方は実験とは無関係にも感じられるが、ここでの問題はそこではない。

 実験が事実であるとして、なぜ憎き組織に従っているか……というところが重要なのだ。


「善大王様は、組織の存在をいつ知りましたか?」

「……つい最近、だな」

「そう、組織はそれまで姿を隠し続けてきました。いや、常に表の姿を持つことで、擬態し続けてきたのです」

「商会や貴族、果てには警備隊にまで通じている以上、各国の橋渡しでもあったんだろうな」

「──その性質から、ラグーンの中枢にまで到達した私を消すことは、あちらとしても容易ではなかった。ですから、私は安堵していたのですよ。しかし、こうして戦争が始まってからは、命の価値は安くなった……もし私が死亡したとしても、それは闇の国や魔物によるものとして処理されることでしょう」


 そこでようやく、善大王も理解した。


「奴らの攻撃を退ける為に、自ら飛び込んだというわけか」

「従った後も襲撃は続きましたが、それでも相手の出方だけは分かるようになりましたよ。善大王様を呼び出すことを利用し、娘を守りました。雷と水の紛争を誘発することで、組織の注意を逸らしました」


 互いに利用できるからこそ、これが成立したのだろう。実際、ハーディンが行ったことは組織の命令に従ったものであり、直接的に裁けるものではない。

 彼が裏切り、組織として不要な存在となったとして、その代役はダーム商会の会長で十分である。

 ……つまり、ハーディンは生き残るべく行動を続けているだけに過ぎなかった。



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