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──雷の国、ラグーン城下町にて……。
「ライト、私……」
「分かっている……分かっている」
ぎゅっ、と小さな少女の体を抱き寄せ、辺りの目をはばかることなく、一人の《皇》は恋人の悲しみに寄り添おうとしていた。
流れる涙を拭うでもなく、ただ黙って抱きしめていた。
「私……ちゃんとしたベッドで寝たかったよ……」
「ああ、分かっている。でもな、それお前のせいだろ?」
二人の目が合うが、善大王は同情心を感じさせない表情で直視を続けている。そんな彼の目線が痛かったのか、フィアは泣き顔を作り笑いに変えた。
「じゃ、じゃあ! あの悪い人を倒しにいこうよ! そうしたら宿も出してくれるかも!
「都合が悪いからって話を逸らすな! ……それと、あいつは泳がせておく」
「えっ? なんで?」
神姫と呼ばれながらも、彼女の状況察知には圧倒的な経験不足が目立つ。人生の半分以上を引きこもって過ごしたのだから、これは仕方ないといえるのだが。
「あいつの言動は異常だった。あれじゃ組織の関係者だと気づいてくださいってくらいなものだ」
「でも、あの人は対策を打ってたみたいだよ?」
「それはあいつの保身だろうな。もしくは、調査の遅延を行う為の狙いか……どっちにしろ、あいつは最悪切り捨てても構わない存在として考えられているはずだ」
内通者は国の長らく居座り、その決定を都合のいい方向に進ませようとする──ということは彼の予想に限ったことではなく、光の国で捕らえた者からも聞き出している。
であるならば、そういった存在が国家内に一人もいなくなるという状況は避けたいはず。あのようにボロを出すのはあまりに早計である。
「あいつをしょっぴくのは簡単だが、それをしたら隠れている内通者の警戒が強くなるかもしれないだろ? だから、今はあえて放置しておく」
「でも、あの場の人ってみんな関係ない感じだったよ?」
「……気付かないか? 今回の場にはハーディンがいなかった。あいつはラグーンにおいて大きな力を持つ富豪だ──そんな奴がこの重要な場に参加しないのは不審と思わないか?」
人の顔を覚えていないからなのか、フィアは初めて気付いたと言わんばかりに驚いて見せた。
「確かに……うんうん」
「それじゃ、アルバハラに向かうぞ」
「……どこで寝るの?」
「幸い、まだ昼過ぎだ。時間ならある」
子供らしく、全く隠す気のない嫌悪感を表情に投影させながらも、渋々頷いた。




