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全ての理屈、しがらみを捻じ伏せながら話を進めていく善大王に、ライカは良好な感情を抱いていた。
「(あの小賢しいおっさんをアッと言わせるなんて……善大王もやるじゃん)」
巫女という特別な立場にあるライカでさえ、自国の出資者には少なからずは遠慮を持っていた。だが、そうした制限のない男がここまで気持ちよく黙らせたのだから、彼女の溜飲が下がったに違いない。
「じゃあ手っ取り早く……和平に不満があるものは挙手を」
このような状況で否定できるはずもなく、牛歩戦術を使わせる前に決着が付いた。
しかし、この流れ自体は善大王自身が最初から予想していたものに過ぎない。そもそも、ここまではっきり言わずとも、雷の国は自ら提案を受け入れていたはずだ。
一々癪に障るような行動を取った理由、それはひとつだった。
「(……フィア、聞こえているか?)」
「(…………うん、あの人を調べればいいんだよね?)」
「(ああ、内通している可能性が高い。間違いならごめんなさい──どころか、何も言わなければいい)」
叩いて埃がでなければ謝罪する。これは通常方法での探りなのだが、フィア場合は叩いていることさえわからないのだから、工程をひとつ省くことが可能だ。
空色の瞳に虹色の光が宿った瞬間、彼女は頷いた。
「(一応確認したけど、この人以外は関わりがないみたい)」
「(なるほど、こいつが戦いを起こそうとしたわけか)」
さりげなく使用されているが、《天の星》の能力は人の世界の理を根底から壊す力である。
使用者を蝕む《皇の力》は所詮力でしかない。しかし、こちらの力は人間という存在が組み上げた全てを用意に無意味にするのだ。
それこそ、彼は本来、このような状況を想定して拷問の際に情報が漏れないような手を取っていた。行動にしても同じで、彼の来歴や行為はどのような探りを入れてもクリーンである。
だが、彼女の瞳はただ純粋に事実だけを見つめる。実際に発生したことである限り、それは隠し立てをすることはできない。
極端な例を挙げれば、異なった選択の世界や過去未来でさえ、その例外ではないのだ。
「じゃあ、問い詰めるんだね!」
──ただし、その能力を行使する者が優秀であるとは限らない。
巫女がいきなり話し出したとあり、場は急激に静まり──いや、耳打ちが飛び交い始めた。
ライカでさえ「ん? なんか言ったし?」と悪意なき追及を行うほどだった。
「あー……あれだ、今日泊まる部屋を手配してくれなければ、見逃した件をバラすぞーと、こちらのお姫様は申しておられて」
「はぁ? そんなセコいことでこっちの重要なハナシをバラすっての!?」
「いやーこっちも金がカツカツでさ、俺は安い宿でもいいって言ってるんだが、フィアが聞かなくてな──バラす云々はナシで、フィアだけでも泊めてくれないか?」
あながち嘘ではない部分が含まれている為、自然な形で話は続けられた。とはいえ、電撃姫の心証は非常に悪い。
「ざっけんじゃねー! 人を脅しといてタダで泊めろなんてムシがよすぎるし! アンタらなんて野宿でもしろー!」
「可愛い女の子がそんな口調で話すもんじゃないぞー」と、善大王は素っ頓狂な指摘をする。
「えぇえええええええええ!? 野宿やだあああああああ」フィアは寝床の喪失に慟哭していた。
「……コホン、では交渉についてはここまでとしましょう」
「やだあああああああああああああ虫こわいいいいい」
「るっせー! 黙ってろし!」
「いやぁ、混沌を極めてるなぁ……」
王と巫女の二組がまったくバラバラな──それであって秩序の崩壊した無法さで──ことを話していることに、富豪達は唖然としていた。




