3
──会議室にて……。
いつか富豪達が責任の所在を探った部屋に、世界を担う二人がライカに連れられる形で入室してきた。
いくら事前の知らせがあったとはいえ、この訪問には一同が息を呑むほどの威圧感が含まれている。
「善大王様、お変わりなきようで」
「この短期間で変わりようもないと思うがな……いや、あの戦場に俺を向かわせたのがお前である以上、十全であることに安心したといったところか」
言い振りこそは粗野なものだが、さりげなく自身を動かしたのがラグーン王であることをここで明らかにした。
聞き耳に不足のない富豪達はこの一声を聞き逃すこともなく、重要な情報であると心に留めている。
「……して、善大王様がおいでになられたということは」
「ああ、向こうからはもう取り付けてある。あとは王様が──そっちの富豪さんたちも含めて、了承してくれれば終わりだ」
ほとんどが初対面であるからか、善大王の単刀直入な言動を前にして、後手に回るばかりだった。
ただし、一人だけは堂々とした態度を崩していない。
「あなたが善大王様ですか」
「んー……あんたは?」
「……私はダーム商会の会長を務めて──」
「ほぉ、筆頭出資者の。うむ、我輩こそが善大王であるぞ! ミスティルフォード一のうつけにして、歴代でもトップクラスの大うつけだ! 忘れずに覚えておくといい」
どういう意図で確認されたのかを理解していたからか、彼の自己紹介はすっきりとしていた。
奇抜な行動をしているということを自覚しており、した上でまったく反省せず、行い続けているということを表明して見せたといえる。
最高権力者の男がここまであっさり非を認めるとあっては、常套句な批判への展開は容易ではなかった。
「あと、言っておくが俺はラグーン王から頼まれ事を受けはしたが、従っているわけじゃない。誠実な態度に心を打たれ、正義の使者として和平を手助けしているだけだ」
「……つまり、我々には《皇》らしい態度を取る、と」
「もちろん」
たいていの問題を金や人脈、影響力で解決してきた彼ら富豪は、このように滅茶苦茶な相手を最も苦手とする。当たり前だ、自分たちの理がこれっぽっちも通用しない相手を前にすれば、腕力を失った戦士に等しいのだから。
その上、善大王は世界で最高の権力を持つ者であり、正面対決を挑んだところでどうなるものでもないのだから。
「我ら富豪側が他国の大臣らとは違い、国政に影響を持つとしても?」
「この場で異論を成す場合は、死の商人って認識になるが、それはかまわないか?」
「……ッ」
「俺が買収されてないことは、言ったよな? 誠実さを評価したというのも、そこの王が見逃しの件をきちんと教えてくれたからだ。その上で賠償云々を語るなんていうのは、いささかムシがよすぎるんじゃねえか? ──いや? 長引いてくれたほうが儲かるっていう我欲があるなら辻褄も合うし、俺も納得できる。共感もできる」
暗喩や遠まわしな発言ならばまだしも、ここまで直球で比喩のない言葉ともなると、揚げ足を取ることができない。挙句、理論面でどうにかする隙も作っていない。
「善大王様、それは権力による横暴ではないのですか?」会長は引き下がらない。
「横暴だが?」
何も悪びれることなく、善大王は言い放った。
「だが、俺はその権力をそんなに使ってこなかったつもりだ。こんな有事くらいは多少使ってもいいだろ? それにな、権力の正しい使い方っていうのは、人間側の代表だから富を全部寄こせ……っていうくらいのほうが有効だ。俺はしないが」
まさに横暴だが、彼の理屈は間違っていない。
そもそも、《皇》に与えられた権力はこうした有事にこそ機能し、人類──ひいては世界を救う為に用いられる。
かつてその権威が発動された際には、彼の言ったようなことも実行されていた。無論、こちらは強制徴収というより、人々がこれに応えたという形だったが。
戦争の長引き方が尋常ではないことは、もはや民でさえ理解している。時間稼ぎでは戦いが終わらないことも、魔物の襲来が時を追う毎に増すことも。
そんな状況で善大王に抗えるのは、自国だけで根源をも退けられる、と本気で考えていたフォルティス王くらいのものだった。
 




