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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
650/1603

11s

「(この人間離れしたやり方……それが可能な肉体……こいつ、まさか──いや、あり得ねぇな)」


 ディードに何かを感じたウルスだが、彼の身は依然として発火し続けている。

 《火の太陽》とはいえ、自身の能力で生み出した炎を無効化できるほど、ご都合な能力は持ち合わせていない。

 であっても、彼は自身の置かれている状況に、無茶無謀を行った男の方に注意を向けていた。


「(脅威と排除すべきか……いや、奴は雷獣なる存在を口にしていた。その戦いがこいつの助けとなったのであれば──)」


 決心を決めたのか、ウルスは立ち上がった。

 瞬間、切断者の身を焼き始めていた炎は消え去り、それと同じように部隊長の炎も燃焼を停止した。


「お前らの大将は討った。約束通り、おとなしく撤収することだな」

「馬鹿か、その隊長は勝手にことを進めやがった。その隊長が死んだなら、その契約も意味をなさない!」とバロックは言った。

「こいつがどれほどまでお前達を思っていたのか、理解してねぇみたいだな。なんなら、お前から焼き殺してやろうか?」

「ぐっ……かかれ! 奴を殺せ!」


 命令を発するが、誰も動きださなかった。

 副官は何とも思っていなかったが、部下達はウルスの言葉が胸に突き刺さっていたのだ。そして、あの戦いを目の当たりにし、自分達が戦えばどうなっていたのかを知った。


「無駄だよ。あんたの命令じゃあ、こいつらの心は動かない」


 戸惑いの中に現れたのは、ウルスによって焼かれたはずのアカリだった。


「なっ……お前は──今までどこに行っていた! いや、ちょうどいい! あいつを殺せ!」

「あんたも隊長様から作戦は聞いてたんだろう? あたしゃ、そっちのおっさんに負けて……そんで、今の今までおねんね(・・・・)してたってわけさ」

「なら名誉挽回の機会をやろう! こいつを殺せば──」

「だから、勝てないから無理って言ってんだよ。それと、隊長様は死んじゃいないみたいだしねぇ」


 完全に死んだと思っていたのか、バロックは顔を青ざめさせた。

 彼とて、ディードが部下から慕われていることは知っている。幾多の迷走によって薄れつつあるそれも、この戦いで一時の挽回を見せていた。

 これもまた、水の国で起きていたことと同じだ。人というのは本質的に、その瞬間の感情を大事にする。あのような英雄的行動を見てしまえば、それに同調するのが筋という空気が生まれる。


「まぁ、治療さえすれば一命を取り戻せる程度だねぇ」

「ぐっ……」

「ま、おとなしく闇の国に帰るのが得策さね」


 部隊に迷いが満ち始めるが、副隊長はそんな雰囲気を利用、迷いを払拭するように声を大にした。


「この女を殺せ! こいつは裏切り者だ!」

「そんなことを言われても仕方がない立場なんだけどねぇ……知っての通り、あたしゃ雷の国から雇われて密偵をしていたんだよ──で、あたしらがこっちに来てる間に、水の国と雷の国の争いも防がれたってことも知ってるんだがねぇ」


 これには誰もが驚き、言葉を失った。

 それこそ、両国が大規模な戦いを始めれば上陸も容易になり、また帰還の目途も立つとされていた。

 だが、再び同じような状況になったとすると、帰還は不可能に近くなる。本国と連絡を取れたとして、再上陸の機会を待つ余裕は彼らにない。


「依頼してくれるっていうなら、あたしが手引きしてやってもいいけど……それでも、殺すかい?」


 保身を抱き始めたのか、バロックはこれを遮ることができなかった。


「分かった。俺達を本国まで送れ」

「じゃ、代金は後で伝えるとして──それでいいかい? 《紅蓮の切断者》サン」

「構わねぇよ、とっとと邪魔者をこの村から遠ざけてくれや」

「かしこまりっ! ということで、さっさと行くよ」


 部隊は休息を取ることもなく、そのまま反転し、沼地方面に向かって歩き出した。

 ここに長居する方が危険だと理解しての行動とはいえ、ここまで疲労した状態でも実行できたのはひとえにディードの影響だろう。

 隊員達は命じられるまでもなく、自分達の大将を抱え、スワンプの村を後にした。


「おい、待てよ」

「んあ? あたしに用かい?」


 最後尾から続こうとしたアカリを、ウルスは呼び止めた。


「あの大将、雷の巫女と戦ったのか?」

「……あたしも詳しくは知らないけど、たぶんそうだろうねぇ。ビリビリ姫も気になるって感じで、一々通信で聞いてきたくらいさね」


 その一言ですべてが繋がったと言わんばかりに、ベテラン冒険者は──《火の太陽》は口許を緩めた。


「あの若造を、必ず生かして帰れよ」

「……? ま、言われるまでもないねぇ。隊長様が死んじまったら、支払いをすっぽかされるかもしれないからねえぇ」


 会話は終わったはずだが、二人は視線を逸らさず、黙ったまま見つめ合っていた。


「最後の質問だ……お前はノーブルに命じられ、あいつらに付いていたのか?」

「雷の国に命令されたって言ったはずだけど、聞いてなかったのかい? ……それに、あの爺さんはもうとっくに引退しているよ」

「……引退、か。呼び止めて悪かったな、ほら……さっさと出て行け」


 この男はなにを聞きたかったのだろうか、と内心で思いながら、仕事人は護衛対象である部隊の殿についた。


「(もう時代は変わったってことか……それにしても、あのガキも俺と同じ──)」


 彼がアカリを殺しきれなかったのは、おそらく同類であると感づいていたからだろう。

 同類といっても、《選ばれし三柱(トリニティア)》の方ではない。自分と同じく、暗部を抜けた者という意味だろう。

 宰相の火打ち石(フリント)と呼ばれていた彼だけに、それは決して軽い繋がりではなかったに違いない。


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