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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
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術のおさらい

「本日の臨時講師は善大王様です。どうぞ」


 教師は紹介を終え、教室の隅に戻った。


「知っているとは思うが、改めて自己紹介をする。俺は善大王、光の国の現国王だ」

「しってまーす」


 十才未満の女子児童がそう答える。教師は叱責するように睨みつけるが、善大王は優しい笑みを浮かべながらそれを許した。


「本日は将来有望な我が国の子等の為、特別に俺が来ることになった。ただ、緊張しなくていい。俺はどちらかといえば勉強は嫌いな方だ、七面倒くさいこともする気はないから安心してくれ」


 この学園に集まっている生徒は勉学に熱心であるからして、これはさほど大きな発言ではなかった。

 ただ、善大王が軽いアピールをしたからこそ、彼の言葉の通りに緊張感が緩むことにはなった。


「では、今回は術についての授業をする」


 光の国の王、善大王。世界最高権力者の一人でもある彼は、少女を性的に好む変わった性癖を持つ男だ。

 その為か、幼い少女が多くいる教室においても、演技ではなく純粋に笑顔を見せていた。

 性癖はともかく、彼の身分は途轍もなく高い。そんな人物がこの学園に現れたのにも、理由がある。

 ひとつはこの学年に子供を預けている大貴族が莫大な金を寄付し、彼を呼んだということ。

 もうひとつは、彼自身もそれをそこまで問題としなかったこと。

 最大の要因は、この学園自体にも恩を売り、少なからずの人間関係を構築する為だった。

 授業を始める前に教師陣と接触を図り、事前に人間を把握していた。

 少女以外に興味を持たない善大王だが、少女の為ともなれば仮想の好奇心を作り出すことも可能なのだ。

 そもそも、彼は性癖を除いて完璧であり、話術なども優れていた。

 当初の目的通り教師と知り合い以上の関係になり、最後の締めとして教壇に立っている。

 術者としての技量、王としてのカリスマで特別講師をするというのはよくあることだが、彼の場合は教員としても不足ない知識と教育力を持っていた。


「この世界には超常の現象を起こす力が三種類ある。術者本人の才能、そして現象を発生させる為の準備を要する《導術》。才能を多く必要とせず、《導術》以上の手間を必要とする《魔技》が一般的に術とされるものだな」


 ここまではおさらいにも近く、生徒らは頷いていた。


「それらとは一線を越えた、使用者の少ない力もある。それがつまり、使用者の才能が十割を占める《超常能力》だ。こちらは基本的に準備を必要とせず、瞬間的に発動できるという」

「善大王様は使えるんですか?」


 質問が飛んでくる。説明途中ということもあり、結構無礼な行動だが、善大王はやはり怒らない。


「それについてはいまから話そう。俺が《導術》、《魔技》と《超常能力》を分けたのにも理由がある。術は自然の法則に従って現象を呼び出すが、能力は自然の法則を捻じ曲げることができるからだ」

「自然の法則に従うとか捻じ曲げるってどういうことですか?」と男子生徒。

「雨雲があれば雨が降り、雷が鳴る。昼になれば空から光が差す。夜になれば闇が世界を包む。そういうことだな。術ならば《魔導式》で雨雲や昼、夜を再現してそれらの現象を出すわけだ」


 そこまで言い、善大王は《超常能力》のいいたとえを思いついた。


「そうだな……たとえるなら、火を起こす為にはマッチが必要だろ? 術はマッチを擦って火を起こす、何もおかしなことはない。だが、能力はそうしたマッチを使わずに火を出せるって感じだ。ありえないことが起きている、と思ってくれ」

「そんなことできるんですか?」

「《超常能力》は未だ解明されきっていない能力だから何ともいえないが、マッチを手に持っていないだけと思われているな。実際は体の中に炎が入っていて、それを出しているとかな」


 難しい話をするならば、術は外部に《魔導式》などを展開し、それによって事象を呼び出すものだ。

 対して能力は《魔導式》のような、事象発生コードを体内に持ち、使用時に起動することで瞬間的な発動ができると言われている。

 これについては善大王も言ったとおり、解明されきっていないだけに人間の解釈上はこれが限界だ。


「さて、話がズレたな。つまりだ、この二つの分類はそもそも大きく異なっている。結果からいえば、術を使うものは能力を使えず、能力を持つものは術を使えない、ということになっている。だから、質問の答えは、使えないってことだな」


 一応は例外も確認されている。雷の国が出した研究レポートによれば、一部の能力者は能力を持ちながらも、術を使うことが可能だという。

 ただ、それは一割どころか一厘にも満たない稀少例な為、ここでは挙げられていない。


「じゃ、順番に説明していくぞ」


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