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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
648/1603

9F

「賢明な判断じゃねえか」

「さて、それはどうだろうか……」


 正々堂々の戦いという口上に偽りはなく、二人はスワンプ内でも足場が整った地点へと向かった。

 移動の最中にも、バロックはディードの愚鈍さを(そし)るような言葉を述べていたが、当人がそれに言い返すようなことはしなかった。


「(《紅蓮の切断者》……あの男が見せた発火能力は、術の類にはみえなかった。その上、《不死の仕事人》があれほどまで早く敗れたということは──やはり、あの者と部下を戦わせるわけにはいかない)」


 この場に限定していえば、ディードの読みは正解であった。

 ウルスの技術は術の過程を完全に無視しており、故にその前提で手を打とうとすれば、その前に焼き殺されることは必至。対策を調べるにしても、兵のほとんどを犠牲にした段階で、ようやく調査の域に達するような状態だ。


 愛国家であると同時に、民や部下の命を第一にする彼がそのような手を選べるはずもない。


 二人が所定の位置につくと、ウルスの側が先手を譲るという動作をしてみせた。

 罠と疑う場面ではあったが、基本的に一対一を好むディードからすれば、相手を正面から打ち破ることもまた望むところであった。


 しかし……相手が同じような騎士道精神を持っていない以上、それは安易な行動でしかなかった。

 正面突破を狙うディードの真下からは炎の柱が立ち上り、彼の体を焼き焦がした。

 遊びを抜きにした一撃必殺。この出力の炎を浴びたとなれば、それこそ受け流しのスピードで回避しない限りは大打撃となる。


「(この炎……なるほど、術ではないという読みはあっていたらしい)」


 隊長は突進を続行した。体の焼け付く感触を無視し、それでもなお前へと進んだのだ。だが、それで状況が打開できるわけではない。


「(術じゃないことを見切っての行動か。にしても、属性が火属性であることは変わらねぇんだけどな)」


 これこそが瞬時に避けなければならない理由だった。火属性の発火、それによる継続的なダメージ、これを未然に防がない限りは一撃を浴びせられるに等しい。

 切断者の見立て通り、ディードの衣服には炎が燃え移り、主さえも焼き尽くそうとしていた。


「どうやら、勝負は決したらしいな」

「ただの炎なら、燃え移るはずがない。つまり、わたしの読みが上回った!」


 藍色の導力が弾けるように放出されると、彼の身を包んでいた赤炎はそれらの飛び散った破片──非物質である為、これが正しい表現とは言えないが──と共にディードの体から引きはがされた。


「ほぉー咄嗟に導力で皮膜を作っていたわけか。ずいぶんと器用な技術を使うじゃねえか」


 炎を払った部隊長は衣服に至るまで、焦げ付き一つさえ認められなかった。

 つまりはウルスの言うとおり、真に燃え移っていたのは、全身を覆うように放出、維持され続けていた導力だったのだ。

 同時にディードの口にした燃え移るはずがない、という言葉の意味も明らかになる。

 導力──ソウルによって発生させられた火炎ならば、事象に割り込んだ発火であるからして、同じくソウルを元にする対象さえも燃やしかねない。ただし、副次的に広がる火は燃焼(・・)による発火にすぎず、不燃物には着火できない。


 ──術であれば水の中でも火は発生する。だが、燃え広がらない……と、考えるとわかりやすいだろう。


「(──あの炎は術とは違う過程を辿っている……それこそ、強力な導力を直接ぶつけているようなものだろう)」


 目の前で部下を焼き殺された彼が、相手の発火能力を考慮しないことも、対策を用意しないこともあり得ないことだった。

 ただし、防御手段についてはぶっつけ本番、正否不明のままに行われた賭けである。


 称賛の言葉を与えていた切断者だが、接近してくる対象への油断は見られない。

 あの防御が奇跡の一着などではないことを彼は理解している。成功するという見込みと、実際的にタイミングを見誤らないかどうかを考慮していると……すべてを天運に投げた博打(ばくち)ではないと。


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