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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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2j

 寝心地の悪さ、それによる筋肉痛によって、エルズは目を覚ました。

 そこには、誰もいなかった。そもそも、彼女はここよりさらに西にあるプサイドで意識を失っていたのだ。ここがどこか、という疑問が最初に襲いかかったに違いない。


「……ティア? ティア、どこなの?」


 辺りを見渡しても、なにもない。残っているものといえば、役目を果たせなくなった吊り橋と激しい戦いの痕跡くらいのものだった。


「(ティアの魔力がある……少し前までは確かにいたみたいね──あれ、なんで風属性の魔力が三つも?)」


 ミスティルフォードにおいて、風属性使いは限られてくる。彼女が知る限り、ティアを除けば《風の太陽》のほかにはいないはずだった。


「もう一つはあの人の……? でも、なんで? それに、もう一つは比べものにならないくらい弱いし……」


 自分が気を失っている内になにがあったのだろうか、という疑問に頭を悩ませていたエルズだったが、すぐにやるきことを思い出した。


「シアン姫に頼んでママに繋いでもらえれば、そこからティアの居場所もわかるかもしれない……うん、聞いてみないと」


 幸いながら、彼女はシアンの通信術式に介入する手段を知っていた。

 送信先についてはティアが能力を失った時、カイトを経由した記憶から再現が可能である。他国からの通信で弾かれる可能性についても、技術を挟むことで通過可能だ。


 魔女の周りを《魔導式》が取り囲むが、そこには本来必要なものとは違うものが──それこそ量でいえば通常の二倍に到達しそうな勢いで刻まれていく。


「(これで属性を偽装して……あとは、事前に調べておいた形式に変換して)」


 瞬間、藍色の文字は鮮やかな青色に変化し、通信待機状態に移行した。

 少し待つと、聞き覚えのある声で『はい、シアンです』と返事が返ってきた。


「おっ、本当に繋がった」

『その声……エルズさんですか?』

「あっ、はい! エルズです」


 失礼な発言からの始まりとなったが、それも仕方のないことだ。彼女がこれを試したのはシアンが最初であり、本当に繋がるかを調べる機会が今までなかったのだ。


『軍の通信になっていますが……誰か操っていますか?』

「いえ、通信の割り込みという技術を使って──それよりも、フィアさんに繋いでもらえますか?」


 あまりにも唐突なことの連打に、さすがのシアンも困惑を見せていた。


『あの、まず順を追って教えてください。フィアちゃんへの用件は』

「エルズが気絶している間に、ティアがどこかに行ってしまって……フィアさんが《星》の仕事で呼んだのかと」

『……聞いていませんね。わたしもティアちゃんと連絡を取っていないので──本人に繋いでみましたか?』


 焦りからか、彼女はそんな初歩的な──最初に思いつきそうなことさえも忘れていた。

 すぐさま試そうと「少しだけ待っていてもらえますか?」と確認を入れてから、別途通信術式を展開した。


 しかし、予期せぬ結果が現れた。


『どうですか?』

「……繋がりません。たぶん、弾かれているのかと」

『ティアちゃんが別の形式を知っているとは思えませんが……わかりました。確認を取りますね』

 エルズは危機感を覚えていた。


「(よりにもよって、エルズの通信を遮断しているなんて思えない。……でも、闇の国の対策についても、エルズが除外されるようには教えておいたはずだから──別個に遮断を追加したとしか)」


 友を疑うような発言だが、それは彼女が不安を押しとどめる為の自己防衛思考だった。

 もしも弾かれているのであれば、それはティアの生存を意味する。だが、そうでない場合は単純に通信相手がいない──死亡しているから、という絶望的状況となるのだ。


 落ち着きを失い始めた魔女だったが、それまで背もたれにしていた木に向き直ると、全てを理解したように冷静さを取り戻した。


「……すみません、シアン姫。確認はやっぱり大丈夫です」

『本当に大丈夫ですか? ティアちゃんがなにも告げずにどこかに行くなんて、事件かもしれませんよ』

「……置き手紙なら、木に掛かれていました」


 エルズの弱り切った声を聞きながらも、シアン自身も忙しさに追われているのか『そうですか。何かあれば、また繋いでください』とだけ言い残して通信を切った。


 何度読み直しても、エルズは納得できなかった。

 見間違いであることを信じ、近づいてみるが、やはり内容は変わらない。

 幻の中にあるのではないか、と指でなぞってみるが、文字は視覚で捉えた内容と同じものだった。


 魔女は木に頭を擦りつけ、両手で必死に文字をなぞる。それをみないようにしても、結果は変わらない──いや、彼女はそれで何かが変化するとは思っていないのだろう。

 どうやってもティアが戻らない、それを確信して、彼女は泣き出した。誰もいないその場所で、ただ一人残された者として──かつて経験した感覚を、もう一度味わった。



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