10
城の一室で横になり、俺はリラックスしきっていた。
「善大王、今日の式典は完璧だった」
「気を緩ませているところに入ってくるとは、意地が悪いですね」
俺はベッドから起き上がると、すぐに立ち上がってビフレスト王と顔を合わせる。
「気を使わなくていい。私としては娘を任せる者だ、他国の王とは別に考えている」
「そうですか。それで……お義父さん、フィアとは各地を巡らせてもらいます。可能な限り、私が守りますが、危険が付きまとうことだけは事前に伝えておきます」
「なにっ……」
まぁ、当然の反応か。
「確かに反対される気持ちは分かります。ですが――」
「君にお義父さんと呼ばれる義理はない! それとも、フィアに手を出しているとでもいうのか!?」
そっちかよ! いや、確かに冗談が過ぎているような気はしたが。
「特にそういうことはありませんが……世界巡礼については」
「そうか、何もないのであれば問題はない。後者についてだが、それは構わない、自由にやってくれ」
親馬鹿もここまで来るとアレだな。俺としては完全に他人事なのだが。
「出発はいつになる」
「今日には出ようかと。宰相に執務を任せたままなので」
「なるほどな……馬車はなるべく早く用意させよう」
しばらくすると通信術式で連絡が入る。フィアは既に向っているとのことを聞き、俺は一人で外に向った。
豪勢な馬車に乗り込むと、眠りこけているフィアが目に入った。……子供だな。
ビフレスト王と数名だけがその場に立ち会い、俺とフィアは天の国を発った。
走り始めてから少し経ち、俺もフィアと一緒に寝ようとした。
「もう、天の国から離れた?」
「……ああ」
「ありがと」
小さな声だった。だが、密室で聞き逃すはずがなかった。
「おう、感謝しろよ」
「あなたの名前って、何って言うの?」
それを言われた時、周囲の音が完全に消え去ったように思えた。
すぐに意識が戻り、走行音などが耳に入ってくるが、すぐに答えを出すことができなかった。
「善大王、だ」
「名前が?」
「……ああ」
過去に名前があったような気がする。だが、どうやっても当時から善大王と名乗っていたような気がしてならない。
「呼びづらい」
「でも、それが俺の名前だ」
「じゃあ、ライトって呼んでいい?」
あまりに唐突な言葉に、俺は噴き出した。
「なんだよそれ。愛称か?」
冗談っぽく笑った。からかう気はなかったのだが、ただ面白くて笑った。
しかし、フィアは真面目な表情のまま、顔を伏せる。
「……につけてもらった名前を、悪く言わないでよ」
「うーむ……そうだな、フィアにつけてもらった愛称だ。それで構わないよ」
俺は間髪いれずにフィアを肯定した。
「それにしても、ライトってどこから出たんだ?」
「えっ……うーん、たぶん、光属性使いだから?」
「フィアも分かってないのかよ。まぁいいや、これからはそれで頼むよ」
フィアは笑みを浮かべると、すぐに眠りについた。どうやら、俺にそれを伝えたかっただけらしい。
キスしてもいいかもしれない、とは思ったが、それは起きている時にでもしようと考えを改めた。
光の国まではまだまだ時間がある。それまでは、こうしてのんびりしていよう。