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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
638/1603

10f

 声を辿っていくと、そこは驚くべきことに空中であった。

 光線を放射することで滞空していたガムラオルスは、眼下で涙ぐむティアの姿をじっと見つめていた──ように思われたが、実際は彼女の頭上から飛び退いた存在の方に注意を向けている。


「うんっ……うんっ! ガムラン、私生きてるよっ!」

「なら下がっていろ。こいつは時間を越えて行動できる能力者だ」

「時間……? じゃあ見えないよ!」


 そう答えながらも、肝心の彼女は相手の座標を正しく認識できていた。それこそが風の一族な上に《風の星》という身体能力特化型の強さではあるのだが。


「奴の《滅魂槍》は攻撃対象を破壊することができる。防ぐ際には導力を纏わなければ、そのまま殺されるぞ」

「えっ……えええええ!? じゃあ今のって危なかったの!?」

「ああ、だからお前は防御に徹していろ。こいつの相手は遠距離攻撃と飛行能力を有する俺が相応しい」


 前情報を持っているからこその、圧倒的優位であった。

 彼の言い分はまさしくその通りであり、いくら停止時間中を移動できるといっても、跳躍では届かない高さにまで逃れてしまえば攻撃は不可能になる。

 挙句にガムラオルスは遠距離攻撃手段を持ち、相手の射程内に入ることはない。ティアが自分自身を守れる限りは、この戦いに敗北はない。


「《風の太陽》か……何故お前が私の能力を知っている」


 初対面の相手──その上、新世代組のガムラオルスに能力が気づかれていることに驚き、キリクは攻撃の手を止めた。


「ある男から聞いた、といえば分かるか?」

「……ッ、カーディナルの男か」


 ガムラオルスは口許は緩ませ、「そうだ、スタンレー──《秘匿の司書》と呼ばれる男だ」と名を付随して返答した。

 彼の予期した反応とばかりに、仮面の槍使いは動揺を見せた。


「火の国までもがこの戦いに関わっていた、ということか」

「……さあな、どちらにしろこのことを教えたからには、生かして帰すつもりはない」


 飛行に用いられていた力は攻撃手段に変換され、光線は一定の長さに区切られた状態で地面に撃ち込まれた。

 砲撃や遠距離術を思わせる緑の光弾は濡れた土を叩き、砂煙の代わりに泥や泥水を舞い上がらせる。


 キリクの槍はそれらのうち、自身に命中するであろう光弾に限定して打ち落とした。無論、これだけの数が撃ち出されているからには、能力による破壊を発動する余裕はない。


 刹那、再び大槍とその主は視界から消えた。


「そこだ」


 両肩より噴射され続ける光は根本を主に残したまま、一対平行の線としてティアの左脇を打ち抜く。

 凄まじい余波に煽られ、ティアは顔を両手で覆うが、削岩音に似た轟音の響きと同時に光線は先端から根本に至るまで破壊された。


 体勢を崩しそうになるガムラオルスだが、幾度にも渡る神器戦の経験が発揮され、瞬時に安定した滞空状態に移行する。


「よくも、見えないはずの私を狙えたものだ」

「お前が思う以上に、その能力は絶対ではないということだ」


 怒りの感情を滲ませた途端、槍使いの真横にいたティアの蹴りが炸裂した。


「私だって狙われるだけの子じゃないよっ!」


 風属性の導力を付加された回し蹴り、彼女の放つものの場合は殺傷力を有した奪命の一撃だ。

 ただ一発の命中にもかかわらず、キリクの消耗は目に見えるほどに大きかった。それは魔力に限ったことではなく、様子からもよく分かる。


「お前の敗因は、俺一人しかいないと思っていたことだ」


 自分も彼の眼中に収まっているのだと知り、渡り鳥は恋する乙女のように喜びに酔いしれていた。


「そうっ! 私とガムランが一緒だったら最強なんだよっ!」

「……どうやら、そのようだ。だが、私を仕留めることができなかったのは……お前達の甘さだ」

「っ……! ガムラン! この人逃げるよ!」


 ティアが叫んだ時には既に遅く、仮面の槍使いはその場から姿を消していた。


「逃がしちゃった……」

「いや、それでいい」


 慰めのような言葉を掛けながら、ガムラオルスはゆっくりと着陸する。


「でも……あの人はエルズを──」

「今回は全ての要素が俺に味方したからこそ、こうして生き残れた」


 謙遜のようにも聞こえるが、彼はこれを真に受け止めていた。


 遠距離攻撃や頭上の掌握は優位をもたらしこそするが、高速移動を必要ともせずに防がれてしまったからには、消耗させるのがやっとである。そして、肝心のガムラオルスも無限に飛行できるわけではない。

 その上、能力の察知は実戦において彼の予測を遙かに上回っており、一度さえ目視できていなかった。探知できたのは、雨によって地面が濡れていたからに他ならない──彼が地面に向かって乱射したのも、空中にまで識別圏を広げる為だった。

 そして、決め手となったのがティアだった。彼女がただの護衛対象であるかのような立場に陥ったからこそ、最後の一撃が死角からの奇襲になり得た。


 能力的優位も含め、彼にとって都合のいい条件が揃いに揃っていたことにより、両者の生存という結果を引き寄せることができたのだ。故に自惚れはない。



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