17E
──開戦より数刻前。雷の国、東部陣営にて。
緊急召集を受けたフランクは、水の国の侵略を阻止すべく集まった警備兵達と打ち合わせをしていた。
「フォルティス軍の狙いとしては、あちらの国境沿いに戦力を割かせる気のようだが……今、我々警備軍は、この地点に集結している」
指揮官は地図の一点を指し示し、話を続ける。
「斥候からの報告によると、彼奴らは姫様のおっしゃった通りの道を進んでいる。全てが想定通りならば、四方から包囲して圧殺することも可能だ」
銃撃戦を行う警備軍にとって、その四方包囲が有効かどうかは甚だ疑問ではあるが、少なくとも戦力差はそれほどまでにあるということだ。
さすがに全兵力が集っている……ということはないにしろ、こと侵略対策に割かれていた兵員の全てがこの場に召集されたのだ。
「異論がある」
「……なんだ?」
フランクの発言ではあるのだが、この場では誰が誰なのか判断がつかない為か、指揮官は不機嫌気味である。
この判別がつかないというのも、ある意味全員平等の発言権を持つことに繋がるのだが、こうも堂々と意見を言えるのは階級が高い人間くらいのものだろう。
「全方位からの制圧では正規軍が自滅しかねない……姫様の命令は時間稼ぎだ」
「この場で姫様の命令を優先する必要もあるまい。あの狂気の王は討つべきだ……なに、戦場において不慮の事故が起きることは姫様とて理解のこと──」
「見逃すと思うか、姫様の命に反することを」
この時点で異論をなした人間を理解し、指揮官の男は渋々引き下がった。
「……分かった。では、正面から迎え撃つとしよう──しかしだ、雷火の電撃姫がなにを考えているのかは分からないものだがね。兵の命を作物かなにかと考えられているお方からすれば、こちらの被害は考慮の外でしょうな」
実際の戦場で数多くの警備兵を感電させてきた実績があるだけに、この不満は彼に限ったものではないのだろう。
さしものフランクもこの真実に対しては言い返せず、沈黙の姿勢を取った。
日ごろの行いの悪さもそうだが、今回はライカが不戦を決め込んでいる以上、彼らがこのようにして不満を抱くのは至極当然なことなのだ。
その理由については、いきなり呼び出されたフランクでさえ知らないのだから、彼も擁護できるところではなかったのだろう。
警備軍がいくら優れた軍であるとしても、今から戦う相手は最強の軍隊。雷の巫女という、最強にして最凶の戦力を欠いている以上、本来はこのような制約を持って戦うべきではなかったのだ。




