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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 敵指揮官が下した奇策により、瞬く間に形勢は逆転し、再び防衛部隊は危機に立たされていた。 ここでなによりも問題なのは、エルズの判断、命令に誤りがなかったこと。盤上遊技にしてみれば、一切のプレイングミスがなかったにもかかわらず、このような結果に陥ってしまったと言える。


 開幕の洗脳、そして追随を与えずに攻めへと転じた点。継続的に精神干渉を続行し、敵兵力の混乱を誘発させた点。全ては彼女の取れる手の中では、順当な対処であった。

 だが、カッサードの件で分かるとおり、《選ばれし三柱(トリニティア)》は絶対無敵の存在などではない。


 善大王がそうであるように、彼ら彼女らの力は人外と称する程に突出している反面、その性質を狙い撃つような対応策を練ることも可能である。

 もちろん、そうした策を講じる為に必要になってくるのが、状況を知り尽くす程の経験だ。

 事実、同類の内部でさえ、歴戦の強者であるウルスと新参のエルズとでは大きな差が存在している。


 閑話休題、敵の指揮官が経験から導き出した奇策とは、容赦なく被洗脳者を抹殺することだった。

 気絶、解除……ではない。自ら同士討ちを発生させるのだ。

 この返しこそ、魔女の予測の範囲外に打ち込まれた一手であった。


「(分からない……自分の戦力を欠くことを恐れていないから? いや、でもそんな悪手を打つはずがない……悪手なら、ここまで状況が変化するはずないっ……!)」


 人の精神を誰よりも知り尽くしているはずの《闇の太陽》だが、彼女は本質的な理解を行えていた訳ではないのだ。

 言ってしまえば、神器という特異な力を享受し、己から道具の補助役に甘んじてしまったのだ。

 不可解な策、それは正解を突き進み続ける者を迷子にさせ、間接的に人の心に侵蝕する手段でもある。


 彼女はまだ気付いていないが、敵指揮官の意図はエルズの封じ込めにあった。

 第一波として行われた集団洗脳という大掛かりなパフォーマンスによって、彼女は洗脳を自在に行える土壌を瞬間的に生み出したのだ。

 もしこのまま戦闘を続行させようものなら、彼女が当初に想定した通り、相手は潰走(かいそう)強いられていたことだろう。


 しかし、指揮官はその展開を読み、洗脳の防止を優先させた。

 そもそも、幻術という表現は大きい括りである。これを正しく理解しようとすると、二つに大別した方が適切だろう。


 まず一つが、対象の人格を支配し、その人間の全てを自在に制御することが可能になる洗脳だ。こちらは人格掌握という点からして分かる通り、相手の十割を掌握しなければならない。

 二つ目がカイトに使用された幻を見せる技術……まさしく幻術だ。ただし、こちらについても相手の精神を支配していることには違いはなく、見せたいものに限定して掌握を行う為、難度は低い。

……ということで、先ほどの内容は完全に支配されなければいい、ということになる。


 洗脳に抗う為に最も重要なのは、意志の力。揺らぐことのない境地も、何かを強く願うことも、全てがこの抵抗力に繋がる──もちろん、味方に殺されたくはない、という死への抵抗心もこれに含まれているのだ。

 理屈を無視した半狂乱状態は論理の上に成り立つ精神侵蝕を困難にさせ、全てを掌握しきることをも封じる。


 そうなってしまえば、必然的に幻覚を見せる方に切り替えを行うのだが、闇の国の人間は幻術耐性(・・・・)を持っているのだ。これは幻と現実を判別する技能であり、日常的な訓練によっって獲得できる才である。

 いくら正気を失いつつある兵であろうとも、体が反射的に行う確認法は主へと自動的に情報を送り込む。その伝達こそが真であり、自分の五感で捉える者は偽となるのだ。


 ただし、この幻術耐性を含めた展開はエルズも予想することができたはずだ。

 彼女は短期間とはいえ、軍に属していた歴とした軍人である。故に、各部隊がこうした訓練を行っていることも、承知の上だった。

 だが、読みを完全に外したという混乱が思考の霧となり、正しい判断を行えなくなった。経験の浅さが生み出した、思考切り替えの不慣れによる敗北。



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