12r
──水の国、西部国境沿いの湿原にて。
「まっさか、急に目的地が変わるなんて思っても見なかったよね」
「……ええ、でもこうなることを読んでいたんでしょうね。たぶん、前の首都襲撃の時点で」
さすがにその時点では気付いてはいなかったが、件の戦いが閃きのきっかけになったことを考えると、彼女の予想は大きく外れていないとも言える。
「それにしても……こういう時にもっと早く移動できたらいいのになー! ──って思っちゃうね」
「こんな時に運んでくれる御者さんもいないし、仕方ないと思うけどね」
「うー……そうだけどさー。私もガムランみたいに飛べたらなーって思うんだよね。そしたらもっといっぱいの人を助けられるしさっ!」
直に見ていないとはいえ、彼の能力についてはフィアやミネアから聞き及んでいたようだ──《星》が生命の刻限を知らず、戦争も始まっていなかった時期に。
走りながら話をしていた二人だが、ついに戦場を目視した。そして、あまりの惨状に乾いた笑いが彼女達の表情を支配した。
「あれは相当な事態だね」
「うん、でも私達ならどうにかできるよっ!」
二人の冒険者は軽い調子で事態を見守っていた。
そこにあるは魔物の大群。精鋭兵二名が含まれているという部隊も、さすがにこの相手を前には悪戦苦闘を強いられている。
「ティア、最初に決めておくけど……これは時間稼ぎが目的。それが終わったら、すぐに逃げるよ」
「わかってるって……でも、今は助けるのが先決だよね?」
「……はいはい、じゃあそうするとしますか」
駆け出すと同時に、エルズは仮面を取り出し、バグを対象にした精神干渉を開始した。
実力を高めつつある彼女であれば、鈍色の瞳を持つ魔物でさえ制御できそうなものだが、今の状況では羽虫の操作の方が重要であった。
部隊が後退して行く方向に回り込んでいたバグは攻撃を中断し、武器を装備しようとしていた騎士達の前で整列し始めた。
そして、計ったようなタイミングに最高速で走り出したティアが到達し、綺麗に並んだ眷属へと術を発動する。
「《風ノ五十九番・疾刈》」
詠唱が終了すると、発動前兆の風が彼女の背後から吹き付け、髪が靡いた。
誰もがあり得ない方向からの気流に心を奪われ、彼女に目を向ける。煌めく光芒に囲まれ、どことなく神聖さを覚えさせられる少女の姿に、全員が言葉を失っていた。
「ちょっと急だけど、友達の頼みで緊急参上っ!」
刹那、四十にも上る羽虫全個体の頭部と胴体は両断され、消滅時に放たれる粒子が辺りに拡散した。
「なんだあれは」
「援軍か?」
「だが、声は子供だったぞ」
距離が遠く、詳細な情報を捉えられなかった後方の者達が口々に言葉を発する。
それこそが、二人の期待していた呼び掛けとなった。
「《放浪の渡り鳥》と……」ティアは相棒に視線を送る。。
「《幻惑の魔女》ッ!」
「正義の為ならどこだって駆けつける! 正義の冒険者パーティ《カルマ騎士隊》だよっ!」




