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──雷の国、ラグーン城にて……。
「……その話は本当ですか?」
「たりまえじゃん。まさか本当にフィアまで出てくるとは思わなかったけど、あの淫乱が出てきたってことは、フォルティス軍の情報は間違いないし」
「分かりました。では、警備軍に通達を送りましょう」
ラグーン王は速やかに対応をしようとするが、そんな彼をライカは呼び止めた。
「ちょい待ち。一応警備軍は配備させておくし」
「警戒、ですか」
「違うし。肝心のガキ好きのヘンタイと淫乱リーダーが遅れるかもしんねーって言ってきたから、こっちも遅延しなきゃいけないかもって話しよ」
「……は、はぁ」
おおよそ誰を指しているのかを分かりながらも、娘の口の悪さをこうも知らしめさせられたからには、今後を憂いずにはいられないのだろう。
「しかし、《放浪の渡り鳥》も助けに来るのでは?」
「あいつもおんなじ。遅延させることはできても、戦いを止めるだけの発言力はねーってことよ」
「……ですか」
「だから、こっちの迎撃部隊にはフランクを入れておくし」
「とはいいますが、彼も──」
「こんな時期に休暇なんてくれてやる必要はねーし。さっさと呼んで、向こうに備えるのが最適っうハナシ。分かった?」
こんな状況で休暇を許すなど、常識的には考えられないものだが、警備軍の存在からすると仕方ない性質なのかもしれない。
警備隊の時代は王が雇った者達で構成され、警備に重点を置いた部隊にすぎなかったが、現在の警備軍は能力者や銃器に長けた国民も混合した軍隊である。
そうした事情から、強制徴兵の対価に一定の自由が許されているのだ。主に、首都の家族達と過ごす為の休暇であることが多い。
ただし、フランクについてはもとより警備隊であり、軍になってからも所属している為に大きく違いはない。
だが今、彼は別命を受けている為、呼び戻しを掛けることは困難である。
「で、どーすんの? できんの?」
「ライカは戦場には出られない、ということは確定ですか」
「一応ね。こっちが念の為にって理由で出向いたら、フィアに不信感を与えかねねーから」
「では、ライカがフランクの代役を打ってください。そうすれば、呼び戻すことができます」
「は? アイツは休暇取ってるんじゃねーの?」
ここに来て、ライカもようやく理解した。理解はしても、別の任務を与えられているということは想像もしていないようだが。
「ハーディン氏の要求ですよ。《不死の仕事人》を偵察の任務につけるのであれば代理を寄越せ、と。彼女の代わりを務められるのは、彼しかいませんでした」
「なーる。そういうことなら、アタシが行くとするし……というか、どういう仕事をしてんの?」
「護衛……できることならば子守、と」
ライカは目を細め「それ、国が対処する必要あんの?」と冷静な一声を放った。
「はい、彼は相当な額で仕事人を雇っていたようなので……彼女があのような真似をしたのは想定外でしたが、富のもとに平等である雷の国ではこちらも応じないわけにはいきません」
「平等……ね。ま、構わないけどさ」
王族以外が血統に縛られていないということは、いつかの富豪達が会議に参加していた点からも分かるだろう。
この国は過去未来のしがらみにとらわれず、現在の力である財によって構築されている。故に、自由の国であり、どんな人間でも上を目指すことができる。
その性格こそが、《武潜の宝具》などの異世界文明を取り込む土壌となり、能力者を部隊に編成するという常識を超越した選択を許したのだ。




