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──首都フォルティスにて……。
「カイトさん達が出るみたいだね」
「……まだよ」
「もう、私だって分かってるよ! ……でも、動けないのってつらいね」
四人の巫女が関わることになり、改めて会議が行われていたのだ。
その場でティアとフィアの参戦証明を行うと同時に、彼女らが水の国ではなく両国の味方──争いの阻止を目指すという意味で中立──という立場を示したのだ。
ティアがその場で頼まれたは、防衛部隊の出撃の時点では動かないこと。本隊の出撃に合わせて移動を開始し、国境沿いで両軍の戦闘を阻止することの二つだった。
フィアが現在進行形で遅れているという事情を考慮しての決定であり、本来ならば防衛部隊につき、万が一の侵攻を防ぐという役割が与えられていた。
この変更に関しては、ライカ側が攻めないという言い分を信じたことも大きかったが。
……ということで、ティアはかなりの余裕を持ち、それであって動き出せないジレンマに悶えていたのだ。
「それにしても、フィア……さんは間に合うかな」
「みゅ? どうだろ、善大王さんが間に合わないって見込み立ててるらしいし、少しキツイかもね」
「……そう」
「大丈夫っ! 私達二人で止められたら、ラブラブの二人が遅刻しても怒られずに済むよっ!」
「ティアの心配はそっちなのね」
エルズは脳天気に笑う親友に釣られ、緊張感や不安感などを吹き飛ばすように笑った。
「(パパとママがこなくても、どうにかできるよね……エルズとティアがいたら、大丈夫だよね)」
彼女らしくもない弱気な考えのようにも思えるが、今回は想像を絶する程の重責が存在している。
もし、両国が争いを始めてしまえば最後、国家間の協定はひどく困難なものになるだろう。その上、自国領内で敵を排除するという形で、五対一の形式が成り立っている戦争模様も大きく変化する。
世界の今後を分かつ一戦、敵を抹消していくだけでよかった諜報部隊時代とも、無知故に恐れを知らなかった時代とも違う。
「こんな時にウルスさんとかがいてくれたらよかったのにね」
「……あのオッサンはいたとしても協力しないでしょうね。《選ばれし三柱》の中でも、古い世代はこういう世界の行方を決める戦いとは関わらないようにしているらしいし」
「そなの? ただ面倒くさいだけかと思ってたけど」
「ティア、意外とひどい言い方ね……」
呆れているエルズだが、事情については彼から直接聞いたわけではない。そうであっても、彼女は確信を持っていた。
なにせ、それを彼女に教えたのは他でもなく、先代の《闇の太陽》──ムーアなのだから。
もしも彼が生きており、エルズが魔女という汚名を背負うような人生を歩んでいなければ、きっと娘である彼女も同じような考え方になっていたことだろう。
「じゃあクオークさん! あの人だったらきっと助けてくれるよ!」
「彼は支部長と代表の二名を相手取ってる最中よ。こっちに来る余裕はないわね」
「えっ!? そうだったの!?」
「ええ、直接本人から聞いたの。そしたら、善大王様とフィアさんが来て、冒険者ギルドのゴタゴタを解決してすぐに帰っちゃったから、二人の代わりをしているみたい」
これを聞くに及んだのは、ギルドマスターのあまりに柔軟な対応に違和感を覚えたからだ。
いくらティアが人に希望を与える人物だからといって、組織に埋もれて感情を消しされるような相手がそれだけで納得するはずがない。
ギルドに何かが起きているのかを調べるには、クオークに聞くのがもっとも手っ取り早かった。その一件目で正解を引き当てるという時点で、彼女もなかなかに運がいいと言えるが。
「クオークさんも頑張ってるんだねっ! じゃ、私も私で頑張らないと!」
「そうね」
笑顔で応えながら、エルズの中には良好な疑問が一つだけ存在していた。
「(ギルドマスターがティアの提案を呑んだのも、会議中に私見をこぼしたのも、パパ達のおかげ……だったらいいな)」
二つの勢力が起こしていた抗争についても、彼女は首都に戻ってから確認していた。それが急激に解決へと向かったのは、ティアが説得に成功した少し前のこと。そう考えると、ギルドマスターが手のひらを返し、協力要請を受けたこともも納得がいく。
だが、彼女の抱いたそれは探求心から来るものではなく、自分の両親が見せた奇跡的活躍を誇る子供のそれに近い。




