7
魔物討伐記念と銘打たれているが、ビフレスト王のことだ、娘が社交的になったことが喜ばしいのだろう。
それを示すように、ビフレスト王は制限なく酒を流し込んでいた。
俺はというと、遠慮気味に、それであって文句を言われない程度に酒を飲んでいた。もちろん、まったく酔いは回ってこない。
退屈しているのは俺だけではない。もう一人の主役であるフィアも、目の前に置かれた食事をフォークで突きながら、食べもしないでぼーっとしていた。
不意にビフレスト王が手招きをしていることに気付き、俺は席を立った。
「はい」
「いや、よくやってくれた。善大王がいなければ、この国は滅びていたかもしれない」
フィアがいたことを考えると、そうとは考えづらい。しかし、卑屈になるのは正しくない。
「有り難きお言葉」
「それで、《風の大山脈》の件はどうなった」
目が鋭くなったのを確認し、俺は額から汗を流した。
だが、思ったよりも焦っていない。一度死を体験しただけに、少し感覚がずれたのかもしれない。
「失敗しました。申し訳ありません」
「……だろうな。ウィンダートが通さないだろうとは思っていた」
その名が出た時点で、俺は驚いた。
「何故族長の名を」
「侮るな。かつて、私も対処に向った」
「ビフレスト王が……?」
俺のような善大王が単騎で動くのも相当に異常だが、ビフレスト王は天の国の王だ。そんな要人が向うとは考えづらかった。
「まだ若い頃だ。勇気と蛮勇すら区別のつかない頃に向った。結果は同じだったが」
失敗すると分かっていて俺を送った? 一体何の意味があって。
「善大王の考えていることは大体分かる。はっきり言っておこう、無理か可能かを取り違えるのは王として大きな欠陥だ。今回は遊びで流したが、正規の場であれば問題になっていた」
善大王が最初から天の国と接触を図るのは、こういう理由があるのかもしれない。
言ってしまえば、王として学ぶ為。実地としての訓練だ。
「これからは慎重に動きますよ」
「慎重になりすぎるのも考えものだ。王は決断を大胆に行わなければならない、ただ座っているだけならば誰にでもできる」
シナヴァリアにかなり仕事を投げている俺からすると、結構耳が痛い。
「仕事の話はこれくらいにしておこう。ここからは個人的な話だ」
「はい」
「以前、善大王はフィアを外に出せと言った。忘れてはいないな」
「ええ、現状は良好のようですが、それは飽くまでも希望があるから。今後続くとは思えません」
「先の戦いを聞き、私も少なからず意見を変えた。……善大王は、フィアを守れるか?」
それを言われた瞬間、俺はこの宴がどういうものかを理解した。
「……はい、守りますよ」
「その言葉に偽りはないな」
「神に誓って」
言いきると、ビフレスト王は快闊に笑った。
「ならば、任せるとしよう」
「帰す時期などは」
「期限などはない。私が呼び出したときにだけ戻ってきてくれればな」
あのビフレスト王がこの返答……奇妙だな。
「君にはまだ話していなかったな。何故、私があの子を城に閉じ込めていたのかを」