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「さて、これで懸案は排除されましたね」
「あなた……最初は遊んでいたの?」
一応の決着を迎え、ズタズタに荒らされた土地で一息をつく一同だったが、エルズだけは警戒心を露わにしていた。
「遊んでいたとは失敬な。私はただ、余力を考えて戦っていただけのことですよ……《幻惑の魔女》」
「あなたの実力をみて、エルズが気づかないとでも? あの動きは《選ばれし三柱》クラスのものだった……それがただの騎士をしているなんて、信じると思う?」
ただの騎士、というのも失礼な表現に聞こえるかもしれないが、ここでは名を出さずに行動していたことに対して追及しているのだろう。
《水の月》であるカイトしかり、《火の太陽》であるウルスしかり、凄まじい実力を持つ人間達は正体を知られずとも名を轟かせているものだ。
特に優秀な人間、という意味でさえライアスの例があるのだから、全くのノーマークがティアと同等の実力を発揮していたのは奇妙極まる。
「なにを言っているか分かりませんね」
「……《幻惑の魔女》、あまり深入りはするな。先ほども言ったが、軍は……」
「軍は利害関係でギルドと協力しているだけに過ぎないってことでしょ? そんなこと分かってるわ」
「ならば、軍に秘匿事項があったとして、それをお前達に知らせる道理はない」
元諜報部隊であると同時に、彼女は《闇の太陽》だった。
元王宮騎士の一挙手一投足、表情も読めない騎士の反応、それらから真実を導き出すことは決して難しくはない。
「(真相はどうであれ、この騎士の正体を軍は知っているということね……なら、エルズの関わるところじゃないかな)」
彼女が恐れたのは、この人物が国家に潜入した何者かではないか、という展開だった。その点でいえば、存在が認知されているのであれば確率は大きく下がる。
「どうしますか? もう戻りますか?」
「もっちろん! 急いで戻った方が、みんなも助かるだろうし!」
「……では、我々は元々の部隊に戻るとしましょう。あなた方は……そうですね、別働隊の方を」
「いま言われたばかりだけど、エルズ達は利害関係で繋がっているのよ? あなたの命令に従う義理は──」
「カイトさんが心配なんだよね?」
ライアスは驚いたような顔をするが、肝心の騎士は落ち着いた様子で歩き出した。
「解釈はあなたに任せますよ、《放浪の渡り鳥》。あなたは期待通り、素晴らしい戦士でした」
「どーもっ!」
頭を下げるティアを後目に、二人の騎士はその場を去った。
「ティア、どういうこと?」
「ん? なにが?」
「いや……あの、なんで《水の月》の話を出したのかな、って」
「うーん……だって、別働隊ってカイトさんのいる方でしょ? だからそっちが心配なのかなーって」
言われてみればその通りだが、彼女の相棒はそれでは納得できないといった様子だった。
「(ライアスの見せた態度……まるで図星だって思ったように見えたわ。それに、今考えてみたら、ただの同僚でしかないあの人を妙に立てていたようにも見えたし……)」
結局、答えに結びつくということもなく、二人は別働隊の支援に向かった。




