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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
607/1603

15r

『まずい……っ! 全員下がって!』


 エルズの声が四人の耳に届き、反射的行動できた三名はその場から逃れることに成功する。

 次の瞬間、トカゲの体からは藍色をした針が無数に伸び、自身の周囲に群がる障害を排除しようとした。

 咄嗟にバグ三体が守りに入るが、鋭き針はそれらを貫いてなお、逃げ遅れた騎士の上半身を穿った。


「なっ……なんで、こんな……」


 そう言い残し、男は絶命した。

 術の効果が終了し、トカゲのもとへと収束していくと同時に、彼の体は力なく地面に倒れる。彼だけではない、今の攻撃を直撃したバグ達もだ。

 それだけならばまだしも、それまで弱り切っていた魔物は体力を回復したかのように、雄々しく立ち上がった。先ほどまでと同じく、二足で。


「……あの針、対象の力を吸収する効力があったようですね」

「そうだな。魔物の使う術は通常の術とは違うが、こうなると厄介だ」


 今の術は《闇ノ百一番・針地獄(ニードルフィーバー)》だった。火力こそは本来のものと大差ないが、追加効果の生命力吸収というのはかなり厄介なものだ。

 強靱な肉体を持ち、生命を終わらせるにも骨を折る魔物が回復手段を持っているとなると、ただでさえ困難な討伐がより至難なものに変わる。


『あの藍色が存在隠蔽を持っていて、このトカゲが回復と対接近戦を両立できる術……当初の場所に現れていたとすれば、どれだけ悲惨なことになっていたことでしょうね』

「安易に近づけば、あの針が襲いかかる……しかし、呑気に術で応戦するには、相手は早すぎる」

『エルズが加わるにしても、火力が足りないわね』

「……こうして話し合う時間も無駄ですね。攻撃については、私が無理をしましょう」


 剣と盾という、軍において標準的な装備しか持たない騎士はそう言った。


『隠された力とかが解放されてくれるなら、どうにかなるかもしれないけど。現状は軽くないわ』

「ですから、本気を出すと言っているんだよ」


 騎士は持っていた武器を地面に投げ捨てると、長刀を取り出した。

 長物が入った袋を持っていることはエルズも気付いていたが、通信を担当する人物とみていただけに、驚きも軽いものではない。


「この男の実力は私も保証する」

「うん! なんかわからないけど、すごい自信だよ! きっと大丈夫!」

『ティアも相当な自信みたいだけど……ええ、分かったわ。それに、話すにしても戦いながらね』

 攻撃を仕掛けてきた魔物に対して、ティアと騎士は飛び上がり、敵の体へと張り付いた。


「わぁっ! すごいねっ!」

「あなたほどでは」


 両者の攻撃が同時にトカゲの体に突き刺さり、体を仰け反らせるほどに至る。そのまま間髪入れず、ライアスが上方に向かって跳躍し、突進のように突きを放った。

 三者の攻撃が成立した時点で、対象は万全に回復した状態から一転、再び追い込まれたように倒れ込んだ。


「(回復は完全なものではないみたいね……だからといって、あの騎士の戦闘力が平凡というわけではないけど)」


 ティアという超人と共に戦ってきたエルズだからこそ、彼の異様さを敏感に捉えていた。


「(あのライアスっていう騎士が優れているのは、何となく分かる。エルズ姫が名指しで教えているってくらいだから……でも、名前すら聞いていない騎士がそれと同等──どころか、ティアの戦い方について行っているなんていうのがおかしいわ。あれは人が真似できるような代物じゃないはずよ)」


 二人の戦い方は、無名の騎士と英雄的冒険者という差を感じさせない──むしろ、二人の類似感を覚えさせるものといえる。


『術の発動まであと五!』

「分かったよっ!」

「了解」

「……分かった」


 三人は返答を寄越すと同時に回避行動を取り、射程を見切った上での安全圏へと逃れた。

 魔女の読みは正確無比そのもので、五を数え終わった瞬間には藍の針が無数に伸び始める。


「さっすがエルズ!」

『もう余力はないはずよ。パパっとトドメを刺しちゃって』

「りょーかいっ!」

「ご一緒しますよ、渡り鳥」


 針が収束していく最中にもかかわらず、二人は接近を開始した。

 先んじて前を取った騎士が長刀で針を叩き折り、無防備な部位を作り出す。その隙間を狙い撃つように、嘴を想起させる蹴りが打ち込まれた。


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