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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
604/1603

12r

 視界を覆う森が取り除かれた瞬間、煩わしさすら愛しく感じるほどの景色が五人の戦士を出迎えた。


「増援申請を行うべきでは?」

「あっちの戦いはもう始まっているわ。たぶん、こっちに戦力を寄越すだけの余裕はないはずよ」

「……そのようですね。あちらが苦戦しているという通信が、先ほどから何件も届いています」

「なら、私達だけであれを撃破するしかない……ということか」


 暗い雰囲気が漂うが、ただ一人の冒険者だけは常と変わらない明るさを保ち続けていた。


「大丈夫、きっと大丈夫だから!」

「この状況で根拠のない発言は──」

「ええ、ティアが大丈夫っていうなら、どうにかなるかもしれないわね」


 エルズに発言を遮られ、騎士は怒りを通り越して呆れかえっていた。いや、正しくは絶望を再認識したというべきか。


「勝算はありますか?」

「……あなた達の戦い次第ね。三人で鈍色を引き受けられるっていうなら、おそらくどうにかなるわ」

「なっ……! いくら我らが優秀な軍であるからといって、そのような無謀は──」

「時間稼ぎであれば、可能かもしれませんね」

「私は討伐するつもりだが、それでも構わないな」

「ええ、できるものならそうしてくれるとありがたいわ」


 凄まじくスムーズなやりとりを終え、《カルマ騎士隊》の参謀は仮面を取り出した。


「説明は戦いながら伝えるわ」

「相手もこれ以上は待ってもくれないだろうしな」


 一団が散開した瞬間、それまで立ち止まっていた位置の森が喰われた。

 その外見はワーム、この場では巨木を喰らうに留まっているが、町のそばであれば家屋を呑み込みかねない。

 そんな怪物の顔面──歯牙が円形に生えているので、この部分を顔とみていいだろう──には、木々とは違う色合いの緑が張り付いていた。


「こっちは私に任せて!」


 藍色の魔物を相手に、何の恐れも躊躇いも見せずに接近を試みる。武勇に満ちたフォルティス軍においても、ここまで無謀な真似をする者はいないことだろう。


「あれが冒険者……?」

「あのような真似を見せられたら、戦う他にありませんね」

「……気高きフォルティスの騎士が、冒険者に劣るなどとは思わせない」


 自身の言葉を大言壮語にしない彼女の姿をみて、正規軍の騎士達は一斉に行動を開始した。


「(まったく、ティアの派手さには毎回驚かされるわ……本当に。じゃ、エルズも期待に応えないとね)」


 上位個体を守ろうと、迫り来る騎士達に襲いかかるバグだったが、その動きは天地が返ったかのように反転した。


「(とりあえずは鈍色からね。ちょっとばかり難しいけど、今回はエルズも頑張らないと……数が足りないはずっ!)」


 二十体の眷属は一矢乱れない動きで主のもとへと帰って──返っていく。

 ただでさえ制御権を奪い取るのが困難な魔物を、それも二十体同時に操るという時点で、彼女の無茶が加減を越えていることが分かる。


「うぉーっ! エルズすごーい!」


 遠目でも分かるバグの一斉移動を目にし、ティアは純粋な心で歓声をあげた。

 ただ、そんな彼女のいる場所は巨大ワームの顔──森すらも喰らい尽くす大口の真上だ。


 自身の体に異物が付着していることには気付いているのか、藍眼の魔物は顔面から地面に突っ込み、急激に跳躍し、転がり……様々な方法で振り払おうとしている。

 《放浪の渡り鳥》がそうした妨害一つで怯むはずもなく、むしろ高く掲げられることを好む子供と同じように、変わりゆく景色で喜んでいるほどだ。


「さーっ! 私もかっこいいところ見せないとね!」


 無抵抗で魔物に付き合っていたように見えていた彼女だが、前準備を無事に終えたようだ。

 高度が落ちた瞬間、それまでしがみついていた魔物の体を離れ、背面から降下しながらも落ち通気を保っていた。


「《風ノ六十一番・衝風(ショックウエーブ)》」


 たった一言の詠唱だったが、世界に及ぼす影響はその比ではない。

 鎧を思わせる鱗は彼女の声に呼応し、緑色に発光し始めた。それは一部に限らず、大河の如く巨躯、その半分に到達している。


「(超至近距離から、《魔導式》を直接刻み込む……そんな破天荒な戦術を取る術士など、聞いたことがない。その上、あの娘は魔物の抵抗を受けていたはずだ)」


 遠くで行われている凄まじい戦いに、ライアスは目を奪われていた。だが、それは単純な感嘆ではなく、危うさを覚えての反応とも言える。


「(体内に向かって術を使えば、確かに威力は高められる。しかし、あれでは中級術数十発分といったところ……鈍色ならばともかく、藍色には届かな──)」


 刹那、周囲の草木を、水面を、空気を震わせるほどの衝撃が襲いかかった。

 雷の最上級術さえも上回りかねない威力の破壊が、今まさに飛び上がった魔物の身に炸裂し、余波の震動をまき散らしていたのだ。

 強固な鱗も、この凄まじい術の前に限界を迎え、主の体と共に砕け散った。


「なっ……あれが、あれが冒険者だと……?」

『そうよ。あれが《放浪の渡り鳥》……エルズの最高の親友よ!』


 苦戦が予想された戦いは一変、ティアの一撃が閉塞した空気を打破し、勝利の気運を舞い込ませた。


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