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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
603/1603

11r


 移動を開始した五名は森に突入した。

 湿地帯である性質上、こうした森林の中であっても足下は確かなものではない。せり出した根を足場にするという器用な真似をできれば話は別だが。


 先頭を走るのはティア。彼女に関してはその器用な側の人間として見るべきで、ぬかるんでいない地面を判別しながら高速を維持している。

 その後方をエルズと二人の騎士が続き、殿(しんがり)としてライアスが最後尾から追走をしているという流れだ。


「(噂で聞いてはいたけど、本当に優秀な軍みたいね)」


 魔女は前職の経験からか、自身の痕跡を残さないように走っている。それによって速度の減退は発生しているが、風の一族と大差がついていない時点でかなりの腕前といえるだろう。

 対する正規軍の三人はというと、地形を考慮しない走法を見せていた。粗雑と思うかもしれないが、彼らは転倒の恐怖に囚われておらず、故に普段通りを続行できているのだ。

 こうした人間的な強さは、他国の軍では見られない傾向だ。強いて言えば、光の国の暗部や闇の国の諜報部隊がこれに近いと言える。


「《幻惑の魔女》、目標はまだ見つからないのか?」

「蔑称で呼ぶなといいながら、人には平気で言うのね」

「……これが冒険者(きみら)の流儀だと思っていたが」


 背後を確認する間があるはずもなく、それが皮肉なのか本音なのかを調べるのは容易ではなかった。

 しかし、そこはエルズ。自ら悪名という十字架を背負っただけに、精神的動揺はない。


「そ。エルズはそれで構わないけど──それと、魔物は探知に引っかかっていないのよ」

「頼りは渡り鳥だけ、というわけか」

「……異様なものだけどね。あのデカブツが対人間の技術を習得するなんて」


 魔物の知性について確信を得ているのは、現在では光の国くらいのものだ。そうでない国で戦う者達が、物言わぬ怪物に人の如き知能を汲み取るというのも無理な話である。


「あの娘の言葉が本当だとすれば、だ」

「まだ信じていないの?」

「ああ、魔物以外が潜んでいるというのであれば、信じたかもしれない。私としても、その相手にはアテがある」


 何の話をしているのだろうか、と訝しむエルズをよそに、ライアスは続ける。


「この戦いをみて、連中が黙っているとは思えない。いや、むしろ誘発させたのは当の本人かもしれないが」

「闇の国のことを言っているの?」

「……どう捉えるかは君次第だ。忘れてほしくはないが、水の国が君ら冒険者を信用したわけではないぞ。共通の目的があるからこそ、こうして協力しているだけにすぎない」

「でしょうね……そうであっても、今は人手が多くて困ることはない。こっちもそっちも、理解の上でしょうに」


 ある意味、シアンはこういう状況も想定していたのだろう。

 軍はあくまでも上から目線の協定を申し込んだだけに過ぎず、こうした言い争いの発生は確定事項だったと言える。

 だからこそ、正規軍より格下な冒険者達を選出した。上位の冒険者であれば、自身の強さに自負を持っているが故に、売り言葉に買い言葉となってしまう。


「もーっ! 二人ともずーっとそんなんなんだから! もっと仲良くしよーよ、仲間なんだからさっ!」

「君こそ、魔物の情報をこちらに寄越すべきだと思うが? その仲間とやらならば」

「えーっとね……あはは」


 笑って誤魔化そうとしているように感じたのか、殿の騎士に熱がこもった。


「偽りであるならば始末するといったはずだ。忘れたとは言わせない」

「えーっと、そうじゃなくてね」


 急に止まったティアに引かれるように、一団は歩みを止める。


「ティア?」

「私ももっと早く気づけたらよかったんだけどね……うん、もう来るみたい」


 瞬間、ティアの先に続いていた森が消え去り、湿った土だけが残された。


「あー、確かに見晴らしがよくなったらエルズにも見えるように──ってこれは……」

「……ッ」


 そこにいたのは、二体の魔物──だけではなかった。

 藍色と鈍色が一体ずつ、さらに眷属のバグを二十体は引き連れている。想定戦力を鈍色二体にしていただけに、これは明らかに絶体絶命な状況といっても過言ではないだろう。


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