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エルズは子供らしい顔に相応しく、全くわけが分からないといったような顔で首を傾げる。
「え、ええ……そうね、ここには二体が同時に──」
「そうじゃなくて、数が全然違うんだよっ! こっちには四体も来てる!」
「四体!? ちょっと待って! そんな数を読み違えるはずなんて……」
二人の慌て振りに気付いたのか、部隊の戦闘態勢は次々と解除されていった。
「お前達、何の話をしている」と元王宮騎士。
「魔物の数が違ったんだよ!」
「そんなはずがない。冒険者ギルドの探知ならばともかく、軍の索敵で見落としが生まれるなど……」
「なら、私が調べてくるよ! みんなはここで迎え撃って。なにもなかったら、すぐに戻ってくるから」
あまりに都合のいい発言に、紫鎧の騎士は肩を竦めた。
「《カルマ騎士隊》は冒険者側の代表と聞いていたが、この体たらくか。子供らしく、恐ろしくなったか?」
「そうじゃなくて! うー……」
「ギルドの戦力は全て置いていくわ。当初の予定通り、二体の魔物しかこなければ十分に対処ができる……違う?
「それで、逃げる理由になると?」
「あなた達なら、冒険者の助けがなくとも対処できるんじゃない? って、言ったつもりなんだけど。心の底から評価しているのよ、民に苦痛を強いただけはあって、魔物と互角に渡り合えているんだから」
国の体制に対して批判的な発言をしているのだが、彼女の言葉に偽りはない。
どれだけ民を苦しめようとも、水の国の軍事力が世界最高峰であることは事実だ。その圧倒的な戦力は、彼らが魔物を狩っているという点に集約されている。
防衛戦で精一杯の他国と違い、水の国は自国領に蔓延る魔物を討伐して回っているのだ。その機動力から分かる通り、全軍を用いているわけでもない。
「あなた方が嘘をついている可能性は排除できません。ですから、軍から数名をつける、これでどうでしょう」と軍人。
「それで納得するというなら、構わないわ」
「もしもお前達が逃げだそうとすれば、その時はこの私が始末する。それを理解した上で、同じ事をいえるか?」
「逃げたりしないよ。だって、私は戦えない人達を守りたいんだから。それに、ここで戦ってる人達だって死なせたくはないから」
短い沈黙の後、元王宮騎士は口を開いた。
「その覚悟が嘘ではないことを願う」
「ありがと、元王宮騎士さんっ!」
「……私の名はライアスだ。次に蔑称を使おうものなら、真偽を問わずに始末する」




