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気付いた時、俺は寝転がっていた。
「……倒したん、だな」
「ええ、あなたは魔物を倒したわ。本当なら、私が手を打つべきだったけど」
「なぁフィア」
「何かしら」
「なんで、俺の考えていることが分かるんだ?」
一度驚いたような顔をしたフィアを見た時、俺は面白くなった。
俺も似たようなことができるが、それは能力といった類のものではない。フィアのそれは俺の技術とは違う、それこそ魔法のような所業だ。
ただ、気になるのはその原理などではない。
「……あなた、意地悪ね」
「やっぱりか」
フィアはやはり、俺が考えていないことには気付けない。答えを持たずに適当に考えたことは、終点が見えない。
「あれだけ心を読んだような言葉をしておいて隠すのか?」
「隠すつもりはないわ。いえ、隠すつもりはあるけど……別に言っても構わない。ただ言いだしづらかっただけ」
「化け物などと思われるからか?」
今度の驚きはだいぶ違っていた。
「深い過去は見えないが、今のフィアを見ていれば、どういうことが起きたのかを察することができる。辛いことがあったんだな」
「同情するつもり?」
「してほしいならするさ。でも、フィアはそういうのを求める子ではない」
「やっぱり、あなたは意地悪よ」
俺はフィアに微笑みかけ、起き上った。
「なんか妙に冷たくなってないか?」
「……知らない」
フィアの心境に変化が生まれていることは分かっている。知らない、というのが嘘なのも分かっている。
そして、何故そんな気分になっているのかも分かっている。
「仕事が忙しかったからだ」
「知ってる」
「フィアを助ける為に仕事をしていた」
「……」
知ってる。そう、言いたげだった。
しかし、フィアはそういうことは言えない。彼女の根っこがそういう性格、というよりかは俺に対する意地っ張りのせいだろう。
分かった上で、俺はフィアを抱擁した。
「本当なら、かっこよくフィアを連れ出してやりたかったが、出来なかった。ごめんな」
「……優しくしないで。どうせ、すぐどこかに行っちゃうんでしょ」
「ああ、どこかに行くさ。でも、フィアは以前とは違っているみたいだ。俺がずっとどこかに行ったきり、再会の約束を果たさない男だと思っていなかった――だろ?」
咄嗟に隠そうとしてきたが、俺にはフィアの考えが良く分かった。
あの廊下で外を見なくなったのは、心境の変化。一度外に出て、救えこそしなかったが俺が遊んでやり、彼女は彼女なりに何かを見つけた。
俺が来ればまた外に出られるかもしれない。よしんば、外に連れ出してくれるかもしれない。そんな想像をしていたんだろう。世界はそれを希望という。
「馬鹿」
「ああ」
しばし抱き合っていると、奇妙な魔力を察知した。いや、少し鈍感過ぎたらしい。
「善大王、何をしているのかね」
「……久しい再会で、喜びを分かち合っていました」
存外嘘でもない。
「何故、抱き合っているのかね」
「……ビフレスト王、報告は聞いていますか」
俺は立ち上がり、平然と話しを始める。
「ああ、聞いている。急いで帰ってみれば、この始末だ。何が起きた」
「俺とフィアとで魔物を撃退しました、と」
「なに……フィアが協力した? あの協調性のないフィアが」
「おい、協調性ないとか言われているぞ」フィアに耳打ちする。
「お父様はそう思っていたのかもしれないわね。およそ間違ってもいないし」
自分の置かれた立場を理解して対処していない辺り、フィアの人間性にも問題はあるようにも思える。
すぐに思考を止めたが、フィアは何も気付いていない様子だった。心を見通すのも条件があるのか?
「フィアを抱いていた件は別とし、魔物を倒してくれたことには感謝する。今日は宴だ」




