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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
60/1603

6

 気付いた時、俺は寝転がっていた。


「……倒したん、だな」

「ええ、あなたは魔物を倒したわ。本当なら、私が手を打つべきだったけど」

「なぁフィア」

「何かしら」

「なんで、俺の考えていることが分かるんだ?」


 一度驚いたような顔をしたフィアを見た時、俺は面白くなった。

 俺も似たようなことができるが、それは能力といった類のものではない。フィアのそれは俺の技術とは違う、それこそ魔法のような所業だ。

 ただ、気になるのはその原理などではない。


「……あなた、意地悪ね」

「やっぱりか」


 フィアはやはり、俺が考えていないことには気付けない。答えを持たずに適当に考えたことは、終点が見えない。


「あれだけ心を読んだような言葉をしておいて隠すのか?」

「隠すつもりはないわ。いえ、隠すつもりはあるけど……別に言っても構わない。ただ言いだしづらかっただけ」

「化け物などと思われるからか?」


 今度の驚きはだいぶ違っていた。


「深い過去は見えないが、今のフィアを見ていれば、どういうことが起きたのかを察することができる。辛いことがあったんだな」

「同情するつもり?」

「してほしいならするさ。でも、フィアはそういうのを求める子ではない」

「やっぱり、あなたは意地悪よ」

 俺はフィアに微笑みかけ、起き上った。

「なんか妙に冷たくなってないか?」

「……知らない」


 フィアの心境に変化が生まれていることは分かっている。知らない、というのが嘘なのも分かっている。

 そして、何故そんな気分になっているのかも分かっている。


「仕事が忙しかったからだ」

「知ってる」

「フィアを助ける為に仕事をしていた」

「……」


 知ってる。そう、言いたげだった。

 しかし、フィアはそういうことは言えない。彼女の根っこがそういう性格、というよりかは俺に対する意地っ張りのせいだろう。

 分かった上で、俺はフィアを抱擁した。


「本当なら、かっこよくフィアを連れ出してやりたかったが、出来なかった。ごめんな」

「……優しくしないで。どうせ、すぐどこかに行っちゃうんでしょ」

「ああ、どこかに行くさ。でも、フィアは以前とは違っているみたいだ。俺がずっとどこかに行ったきり、再会の約束を果たさない男だと思っていなかった――だろ?」


 咄嗟に隠そうとしてきたが、俺にはフィアの考えが良く分かった。

 あの廊下で外を見なくなったのは、心境の変化。一度外に出て、救えこそしなかったが俺が遊んでやり、彼女は彼女なりに何かを見つけた。

 俺が来ればまた外に出られるかもしれない。よしんば、外に連れ出してくれるかもしれない。そんな想像をしていたんだろう。世界はそれを希望という。


「馬鹿」

「ああ」


 しばし抱き合っていると、奇妙な魔力を察知した。いや、少し鈍感過ぎたらしい。


「善大王、何をしているのかね」

「……久しい再会で、喜びを分かち合っていました」


 存外嘘でもない。


「何故、抱き合っているのかね」

「……ビフレスト王、報告は聞いていますか」


 俺は立ち上がり、平然と話しを始める。


「ああ、聞いている。急いで帰ってみれば、この始末だ。何が起きた」

「俺とフィアとで魔物を撃退しました、と」

「なに……フィアが協力した? あの協調性のないフィアが」

「おい、協調性ないとか言われているぞ」フィアに耳打ちする。

「お父様はそう思っていたのかもしれないわね。およそ間違ってもいないし」


 自分の置かれた立場を理解して対処していない辺り、フィアの人間性にも問題はあるようにも思える。

 すぐに思考を止めたが、フィアは何も気付いていない様子だった。心を見通すのも条件があるのか?


「フィアを抱いていた件は別とし、魔物を倒してくれたことには感謝する。今日は宴だ」


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