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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
589/1603

両者が適切な牽制関係にあるからこそ、今日まで共倒れにならずにすんでいるわけだが、それを理解している者が半数に満たないというのだから問題である。

しかし、ボスの自信に満ちた発言を聞いてか、大衆の感情は安定の方向に変化した。

そもそも、盗賊ギルドは戦闘を是とする組織ではないのだから、相手への威圧だけで軍に直接対決を挑むつもりは初めからなかったのだ。

 そうした性質を承知してか、ストラウブは彼らに理由を与えたと言える。


ただし、この場で論じられた問題は無視できるものではない。なにかしらの干渉を行わなければならない時期が必ず来る。


とりあえずの怒りは収まったが、ガーネスの裏切りについての見解は大きく分かれたらしい。

あの町で行われていた共栄関係の構築、これを主導した人物は盗賊ギルドの幹部──それも次期ボス最有力候補と(もく)される男だった。

ギルド内のハト派であるストラウブに連なる者だけあり、構成員としても複雑な人物である。そんな評価でも地位を高めてきたのは、現ボスの恩恵を受けたからではない。

今でこそ失策ではあるが、相互共同体の計画自体はここ最近まではかなりの成果とみなされていた。


盗みを奨励しない現行盗賊ギルドとは正反対に、彼は大義を作ることでこれを推進させたのだ。

盗賊の安全確保、本業である窃盗の許可、さらには国家に反旗を翻せるという点が評価されていた。

聞くばかりでは善行にしか思えないが、国家の切り捨てた者達を取り込むことにより、将来的には火の国を転覆させることも可能となる。実験地であるガーネスがあのように調和を維持していたのだから、机上の空論ということでもないだろう。


それも仮定の話である。重要なのは、怒りの矛先を向けられたボスが彼らを納得させたこと。この時点で、盗賊達がストラウブに対して不満を抱くことはなくなり、失敗した幹部の一人が全責任を負うことになる。

責任と言っても、なにかしらの制裁が行われるわけではない。ただし、失態を見せた者に忠義を従うほど、盗賊という者達は甘くない……組織内での力は、大きく削られるとみていいだろう。


「(死ぬ間際の抵抗は受けたが、奴の息の根は止めた……これでおれの邪魔をする奴はだれもいない)」


盗賊達に溶け込み、ことの成り行きを見届けたスタンレーは出口に向かった。

カーディナルの勝利によって彼が得たのは、有力幹部──ハロッズの影響力を奪い去ることだった。

拠点、部下、発言力、これらを片っ端に奪われた彼には、もはや幹部としての力は残っていない。


「(しかし、まだ安心はできない。すべての懸念を消すまではな……)」


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