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マッドの告げた事実は、世界を大きく揺るがしかねない言葉だった。
しかし、サイガーの表情に変化は見られず、善大王も思った以上に驚かなかったとあって、彼は捲し立てるように続けた。
「今から何年も前に、冒険者ギルドは盗賊からの賄賂を受け取り、奴らにとって都合のいい条件を呑んだ」
「なるほど、通りで盗賊関係の事件が送られてこなくなったわけだ」
「だろ?」
「俺からすれば、仕事が減って嬉しい限りだ」
「っ……! お前は善を司る皇じゃないのかよ」
「ああ、こう見えても立派な善大王サマだ。だがな、罪を犯した盗賊についてはきっちり報告が来ているんだから、別に構わないと思ってる」
場は一転、表情の固定された蝋人形の顔が溶解し、そのモティーフが狂気から憎悪へと変わった。
「なにを言ってやがる……! 内情も知らない怠惰な皇がッ──」
「密約の内容は、冒険者による盗賊狩りの禁止……だろ?」
情報漏洩という恐れるべき事態に無反応だったサイガーだが、こちらの言い当てには期待通りの様子を見せた。
それもそのはずだ。盗賊狩り、などというフランクな言い方は、まさしく当時の密談で用いられたものだったのだから。
「なんでそれをっ……」
「傾向」
一声では足りない者達に応えるように、もう一度言う。「傾向だ。無差別な報告がある時点から急になくなり、対応がラクになった」
彼の就任時期を知らない者はなく、それが余計に頭を混乱させた。
「傾向っつたって……まさか、先代から聞いてやがったのか!?」
「まさか、あれは機密情報だぞ? 並大抵のかわいこちゃんにたぶらかされたって、見せはしねーよ。先代ならなおさらだ」
「(じゃあ私はすっごく可愛いってことだよね! ライト、大好きっ!)」
「(ああ、愛しているぜフィア)」
冗談のような掛け合いだが、実際は深い。
心理透視のような言い当て、それが統計からの算出で導かれたはずもなく、実際は心理透視によって裏打ちがなされていた。
とはいえ、怪しいと見ていた点も、今から彼が告げようとしていることも嘘ではない。
「過去の情報を洗いざらい調べておいただけだ。ざっと百年分ほど」
別方向の狂気に部屋の全員──クオークはもちろんのこと、フィアは引き立ての意味で──が息を呑んだ。
「い、いや……これは根拠のひとつでしかない。冒険者ギルドは長年の仇敵とさえ手を組む。敵国と関与していても、おかしくはないだろ」
「ふむ、それで」
「俺達はそれを正そうとしているんだよ。冒険者ギルドをあるべき姿に戻すべく、現状の保守に甘んじた──」
冷静な態度が焦りを加速させ、早口気味に、勢いで無に等しい正しさを強調しようとしていた。
「まぁ、それはどうでもいいんだ、本当のことを言うと。善大王としての希望は、お前らが抗争をやめ、終戦の為に尽力することだ」
付け焼刃の勢いは、それこそ一代の栄華にも等しく、なんのこともなく消え去った。
気の弱い者であれば気圧されそうな演説を軽く躱し、礼儀を重んじない本音の開示をするなど、この場で起きる一々で反応しているクオークではできない芸当だ。




