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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
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3

 大臣から聞いていた場所に向うと、漆黒の龍が周囲の木々を薙ぎ払いながら近づいてきていた。

 大きさはヘルドラゴの二から三倍、背の高い木に負けていない。

 以前は恐怖を覚えた。だが、今回はそうでもなかった。

 《風の大山脈》で対峙した奴は見たこともない、禍々しい蟲だった。しかし、こいつは龍、精神的忌避感はさほど強くない。

 さらに言えば、俺は火の国で竜と戦っている。そいつの方が、よっぽど怖かった。

 《魔導式》が完成し、俺は遠距離から第一撃目を放った。


「《光ノ百十番・高破光(ホーリーバースト)》」


 光線が黒い龍の肌を焼き焦がす。痛みに呻くように、龍の咆哮が鼓膜を振わせた。

 かなり遠くだが、黒い龍の瞳が藍色に光ったのを確認した。魔力の具合、曖昧ながらも《魔導式》の形から推測するに、闇ノ百十一番・黒火炎(ダークフレイム)か。

 しかし、攻撃は一向に飛んでこない。迎撃用に術を用意していたが、どうにも意味がないらしい。

 空撃ちかと思い、俺は別に用意していた《魔導式》を起動した。


「《光ノ百一番・星光明(スターライトフラッシュ)》」


 天から光明が降り注ぎ、黒い龍にダメージを与える。そこまでは良かった。

 突如として魔力の上昇を探知し、解体しようとしていた《魔導式》を前方に持ってくる。

 黒い炎が近づいてくる。かなり距離が離れているはずだが、俺の位置を完全に理解しているかのような具合だ。


「《光ノ百十一番・星粒壁(スターダストウォール)》」


 光子の壁が出現し、黒い炎を受け止め、鋭い光の矢を撃ち返した。距離のせいで威力はかなり減退するが、それでも防御と攻撃を両立できれば十分だ。

 着弾を確認した途端、再度魔力の上昇を感じ取る。

 黒い炎が再び俺の方に飛んできた。もう、防御する手がない。

 咄嗟に回避行動を取り、直撃は避けた。それでも、軽度の火傷を負ってしまう。

 あの攻撃……《魔導式》の展開は確認されていない。あの一度、空撃ちにしか思えなかった時を除けば。


『魔物は人間の術を使う。じゃが、それが完全に同じ効果だと思っちゃいかんぞ』


 ヴェルギンはそんなことを言っていた。そして、あの紫色の虫も、本来の効果とは違う術を発動していた。

 どうやら、今回の相手は自動防御で黒い炎を撃ち返してくる、反撃型らしい。

 奴の攻撃が自動反撃だとすれば、術者では速力が足りない。

 かなり危険な手だが、接近戦で戦うしかない。


「《光ノ八十七番・光集(レイチャージ)》」


 俺は黄色の光を纏い、走り出した。

 かなり上位の肉体強化、ほとんどの能力は通常の数倍にまで高められている。ティアのそれを再現するには十分な域だ。

 光属性の本来の戦い方、それは術による肉体強化を用いた、近接戦闘補助。

 急接近しながら、展開していた《魔導式》を起動する。


「《光ノ百十五番・星法剣(スターソード)》」


 光剣が精製され、俺はそれを掴まずに右手に導力を収束させた。

 拳を打ち込むが、予想通りに反撃がない。

 続いて宙に浮いていた光剣が自発的に攻撃を開始し、黒い龍の外皮をえぐり取る。

 やはり、反撃はない。

 こいつが反撃できるのは術だ。武器召還系は術のカテゴリに存在するが、ほとんど実体化している為に術の性質とは違っている。

 現に、光ノ百十一番・星粒壁(スターダストウォール)でも防御はできない。リスクこそあれど、こちらの方が合理的だ。

 反撃ができないとみるや否や、黒い龍は物理戦闘へと移行し、俺を踏みつけようとしてきた。

 しかし、俺の肉体は強化されている。驚異的なまでの跳躍力でその場から離脱し、《魔導式》を展開した。

 光ノ百十五番・星法剣(スターソード)は召還すれば自動的に攻撃を続けてくれる術だ。その性質は武器召還系でもかなり異端とも言える。

 ただ、それが完全でないことは承知していた。

 黒い龍は襲いかかってきた光剣を見据えると、大きく開かれた顎でそれを噛み砕いた。

 この調子で戦っていけば勝てるかもしれない。しかし、今回はティアのように火力の要となる人間がいない、そして武器召還系は火力が一段階は落ちてくる。

 長期戦は必至。それはヴェルギンとの修行で承知の上だったが、こっちは防御ではなく攻めっけを出していかなければならない。


「《光ノ百九十九番・光輝剣(クラウソラス)》」


 凄まじい光を放つ剣に、俺の目まで眩惑気味になってしまう。

 ただ、この剣は闇属性特効を持っている。おそらく、魔物と対峙するにはもっとも有効な武器だ。

 足に斬撃を放つと、それだけで外皮が焼け付くように溶け、大袈裟に暴れ回る。

 効いている。それを認識した時点で、俺は逃げの足を消してしまった。

 それがまずかった。

 攻撃を放つと同時に黒い龍は四肢を解放し、胴体で俺を潰そうとしてきた。俺も咄嗟に逃げようとするが。既に攻撃が発動されている。

 輝く剣が黒い龍の足を溶かすが、それと同時に上からは巨体が降りてきた。

 逃げられない。悪足掻きにも防御姿勢を取ろうとするが、それは無駄だと分かり切っていた。

 刹那、肉を焦がすような音が周囲に響きわたり、黒い龍は吹き飛ばされた。


「……魔物に一人で立ち向かうなんて、無茶するんじゃないわよ」


 金色の髪を靡かせ、戦場に見合わない清楚な服装をしていた幼女は、静かに告げた。


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