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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
562/1603

10r

「(え!? そこ受けるの!?)」


あまりに戦術行動から逸脱した思考なだけに、常識的な彼女がどれほどまでに驚愕──理解不能に陥ったことだろ。


「その代わり、勝負は続行だ」

「もちろん。そこの人と──」

「回し投げのジョナサンとこの私……人体破壊のカッサードが相手をする。術の使用は禁止、己の拳で戦え」

「それでもいいよ」


構えを取るティアに対し、カッサードは怒声を浴びせる。


「さっさとかかって来んか!」

「えっ……うん! いっくよぉお」


彼女は何の警戒感もなく、敵の懐に入った。

普通に考えれば、あの呼びかけは様子見を封じ、情報量の少ない段階での戦闘を強いる意味を持つ。


だが、攻めたからこそわかる情報もある。少なくとも、この場面ではそちらの方が大きかった。


「どうして!?」

「甘いわ、小娘」


通常の人間に大打撃を与える蹴りが、この男の体には打ち込まれている。

だが、直撃を受けているにもかかわらず、平然と彼女を振り払った。


「君がどのような小細工をしているかはわからぬが、いい一撃だった。しかぁし! 筋肉が足らんッ!」


カウンターとして、ティアの細い足を掴むと、大きく振りかぶってから地面に叩きつけた。


「がっ……いったぁ」

「決まった! 部隊長の必殺技、人間ハンマー! 叩きつけられた奴ぁ中身がミンチだ!」


人体破壊という煽りに不足のない説明だが、彼女の体は人並み以上に丈夫であり、激しい痛覚が襲った程度でとどまっている。


「まだ……まだまだ!」

「なにぃっ!? 人間ハンマーを食らって、起きやがっただと!?」


「すごいぞ! さすがは《放浪の渡り鳥》だ!」

「頑張ってー!」


声援や驚嘆の中、彼女の背後から一人の男が迫っていた。


「なかなかのタフさではないか。だが、次はどうだ」

「また耐えて見せ──」


背後からの刺客に羽交締めにされ、渡り鳥の両翼は奪われた。

いくら足技が得意で、機動力の凄まじい彼女とて、体が動かせなくなれば無力だ。


「卑怯だぞー!」

「二人掛かりなんて卑劣よ!」


ティアを封じたまま、首だけで観衆を見やると、下卑た笑みを浮かべ「勝負は二対二、そこでヘタれている冒険者が動きさえすりゃ五分だろ? 動ければのハナシだがなぁ」と嘲笑混じりに煽った。


しかし、彼の言い分もあながち間違いではない。

少女の無鉄砲としか言えない攻防を前に、男は茫然と立ち尽くしていたのだから。


「正義は絶対に勝つの! 悪い奴になんて、絶対に負けないっ!!」


言霊を真に変換していくように、彼女の体からは勢いよく魔力が放出された。

ジョナサンがこれに対し、武器を取り出そうとするが、部隊長はそれを許さない。


彼の読み通りか、ティアは後方に向かって蹴りを放ち、拘束を破った。


「今の魔力変動は闘志の強さと見出した。その覚悟には敬意を示そうではないか」

「ずるっこじゃ、私には勝てないよ」


空間に満ちていた不満は小さな英雄の技によって、奇跡的場面を見たような快楽に変化する。

そうした感情の変化に気づいたのは、皮肉にもカッサードの方が早く、エルズは二番手となった。


「(まさか……第一部隊は場の空気を支配しようとしている? それも簡単な恐怖心じゃなくて、高揚感で)」


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