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民に不安を与えない為か、敵からの煽りによるものか、貧弱な冒険者は頼りなさげだが、自らの足でしっかりと立ち上がった。
「いいぞー!」
歓声と挑発に満ちた戦いを目にし、エルズの言わんとしていることを理解し始めていた。
「でも、あの人たちは悪い人達だよね?」
「それが分からないのよ。第二部隊──エルズがいた諜報部隊なんだけど、そっちとか術者部隊は悪行、卑怯なんでもありなところだったけど」
「あの人達は違う?」
「というよりも、実益を重視しない人達なのよ。純戦士型を中心においていたり、いまみたいな決闘形式を取ったり……本来、術の威力が軟弱な闇の国だと、奇襲奇策が常套句なのにね」
イメージとは合致しないが、彼らのやり方は旧時代の戦士を思わせる。
騎士というほどに高潔ではないが、戦いに対する直向きさは本物だ。
ただし、その点で言うとティアは戦士や騎士とは相反していた。
「私も助太刀するよ」
「?」
弱っている冒険者は困惑し、言葉の意味さえ理解していないような顔をしていた。
「あー……やっぱりそうしちゃうのね」
頭を抱えるエルズとは対照的に、周囲の人々は驚愕の目を少女に向ける。第一部隊の者達でさえ、同じ反応だ。
「なんだ? あの子は」
「危ないから下がりなさいって!」
住民らの声をよそに、ティアはジョナサンの前に立ち塞がった。
「オイガキ、そこどけ……」
「いや!」
「女子供はすっこんでろってんだよ!」
凄みを利かせながら、互いの顔が接触しそうになる程に近づき、唾を飛ばしながら恫喝する。
しかし、緑髪の少女は狼狽えない。それどころか、迫力のない睨みを行ってさえいる。
「ボス、このガキどうしますか? 退かしますか?」
ここで確認が入り、戦いを黙って見ていた男が──部隊長カッサードが、黒地に銀や金の糸で刺繍を施したマントを脱ぎ去り、高らかに告げる。
「子供にしては勇気があるではないか! 君ほどの勇気をあの冒険者が持っていれば、我々も楽しめたのだが」
「じゃあ、私が相手よっ!」
「自惚れるな小娘がッ! この肉体を見よ!」
マントを脱ぎ去ったことで、彼の肉体が露わになった。
下半身を金属製の鎧で固めているが、上半身は防御性皆無の裸だ。
だが、ただの皮膚が晒されているわけではなく、それ自体が鋼の装甲を思わせる筋肉の鎧が形成されている。
「あんなのが第一部隊の……ただの筋肉自慢のナル──」
「うぉおおっ! すごい筋肉だぁ!」
空気感が全然違う二人だが、この場では渡り鳥の意見の方が大衆的だったらしい。
「なんだよあれ、どんだけ鍛えたらあんなになるんだよ!」
「もしここで勝てても、次はあんな人が……?」
「怖気づいたならば、そこを退くのだ」
「怖気づいてなんかいないよっ! 私はランクⅣ冒険者、《放浪の渡り鳥》! ただの子供と思ってたら痛い目遭うよ!!」
二つ名と同時に提示された緑色の宝石により、彼女の身分は証明された。
ただ、この名乗りで魔女は二度目の呆れを見せる。
「(勝負の土俵に乗せるのはいいけど、上位が来たとなったら相手だってそう簡単には──)」
「ほう、子供の冒険者と聞いていたが、本当だったのだな。ならばこの場に立つ資格は十分に持っている」




