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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
561/1603

9r

 民に不安を与えない為か、敵からの煽りによるものか、貧弱な冒険者は頼りなさげだが、自らの足でしっかりと立ち上がった。


「いいぞー!」


歓声と挑発に満ちた戦いを目にし、エルズの言わんとしていることを理解し始めていた。


「でも、あの人たちは悪い人達だよね?」

「それが分からないのよ。第二部隊──エルズがいた諜報部隊なんだけど、そっちとか術者部隊は悪行、卑怯なんでもありなところだったけど」

「あの人達は違う?」

「というよりも、実益を重視しない人達なのよ。純戦士型を中心においていたり、いまみたいな決闘形式を取ったり……本来、術の威力が軟弱な闇の国だと、奇襲奇策が常套句なのにね」


イメージとは合致しないが、彼らのやり方は旧時代の戦士を思わせる。

騎士というほどに高潔ではないが、戦いに対する(ひた)向きさは本物だ。


ただし、その点で言うとティアは戦士や騎士とは相反していた。


「私も助太刀するよ」

「?」


弱っている冒険者は困惑し、言葉の意味さえ理解していないような顔をしていた。


「あー……やっぱりそうしちゃうのね」


頭を抱えるエルズとは対照的に、周囲の人々は驚愕の目を少女に向ける。第一部隊の者達でさえ、同じ反応だ。


「なんだ? あの子は」

「危ないから下がりなさいって!」


住民らの声をよそに、ティアはジョナサンの前に立ち塞がった。


「オイガキ、そこどけ……」

「いや!」

「女子供はすっこんでろってんだよ!」


凄みを利かせながら、互いの顔が接触しそうになる程に近づき、唾を飛ばしながら恫喝する。

しかし、緑髪の少女は狼狽(うろた)えない。それどころか、迫力のない睨みを行ってさえいる。


「ボス、このガキどうしますか? 退かしますか?」


ここで確認が入り、戦いを黙って見ていた男が──部隊長カッサードが、黒地に銀や金の糸で刺繍を施したマントを脱ぎ去り、高らかに告げる。


「子供にしては勇気があるではないか! 君ほどの勇気をあの冒険者が持っていれば、我々も楽しめたのだが」

「じゃあ、私が相手よっ!」

「自惚れるな小娘がッ! この肉体を見よ!」


マントを脱ぎ去ったことで、彼の肉体が露わになった。

下半身を金属製の鎧で固めているが、上半身は防御性皆無の裸だ。

だが、ただの皮膚が晒されているわけではなく、それ自体が鋼の装甲を思わせる筋肉の鎧が形成されている。


「あんなのが第一部隊の……ただの筋肉自慢のナル──」

「うぉおおっ! すごい筋肉だぁ!」


空気感が全然違う二人だが、この場では渡り鳥の意見の方が大衆的だったらしい。


「なんだよあれ、どんだけ鍛えたらあんなになるんだよ!」

「もしここで勝てても、次はあんな人が……?」

「怖気づいたならば、そこを退くのだ」

「怖気づいてなんかいないよっ! 私はランクⅣ冒険者、《放浪の渡り鳥》! ただの子供と思ってたら痛い目遭うよ!!」


二つ名と同時に提示された緑色の宝石により、彼女の身分は証明された。

ただ、この名乗りで魔女は二度目の呆れを見せる。


「(勝負の土俵に乗せるのはいいけど、上位が来たとなったら相手だってそう簡単には──)」

「ほう、子供の冒険者と聞いていたが、本当だったのだな。ならばこの場に立つ資格は十分に持っている」


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