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種の進化をありありと見せつけられ、同時に距離を詰められていく現状、ミネアは静かに時の訪れを感じ取った。
「《火ノ百三十番・火炎弾》」
凄まじい推進力を持った火炎弾は、火ノ十番・火球とは比にならない速度で加速していき、ちょうど一列になった眷属を一撃で薙ぎ払った。
単身の術者防衛、既存の術知識、これらを総合すればするほど、余計に回避の足枷になる。
ここまで複数の術──防衛方法としては一般的な下級術──を使ってきたはずだが、彼女は確かに上級術を発動させた。
その根元たる《魔導式》は、少女の舞踊を飾りたてる赤光。そのストックは、未だ尽きてはいない。
善大王のような使い手がこの状況を見れば、誰よりも驚き、そして読みを違えることだろう。
いってしまえば、光の文字の羅列。《魔導式》ではあるのだが、それが術を意味する並びにはなっていない。
《魔技》に近いといえば近いのだが、機能しているのは歴とした《導術》。
この事態には相手方も黙ってはおらず、大型の魔物──コブラのような風体をしている──が入れ替わるように進撃を開始した。
無論、彼らとて作戦もなくそうしたわけではない。術者単体での防衛戦、その基本を理解しているのだろう。
術者が一人で戦わざるを得ない場合、順列を落とした下級術を使い、接近を防ぎながら時間を稼ぐ。ミネアの場合は、そうしながら敵を倒すのだが。
しかし、魔物のような高い耐久性を持つ敵の場合、その限りではない。
彼女の術がいくら強力であろうとも、下級術で凌ぎきるのは不可能。そうなれば上級術だが、その場合は連打ができない。
最初からそうすれば、と思うかも知れないが、彼らは人に近い精神構造を獲得している。ともなると、自ら危険に突っ込むという、獣のような立ち回りをするはずがなかった。
敵の力量を測り、勝利を確信した彼らに恐怖心はない。実力に見合う自尊心に従い、炎の踊り子を葬るだけだ。
「《火ノ百一番・炎舞輪》」
彼女の声に呼応し、ただの文字の羅列でしかなかった《魔導式》が、詠唱したとおりの導式へと姿を変えた。
そう、これこそが彼女の技術。振り付けによって《魔技》を発動し、《魔導式》に含まれた導力配分を維持したまま、指定の位置へと運ぶ。
パズルの如く組み替え術、彼女の高速展開のタネはたったそれだけのことだった。《魔導式》を読む使い手からすれば、これほどまでに恐ろしい技術はないのだが。
術の発動を察知し、魔物はすぐさま逃れようとするが、もはや手遅れだった。
三つの炎球──一つでさえ人を炎に包むには十分な大きさ──が発生し、竜巻の如く軌道で高速回転を開始する。
それは凄まじい速度で大蛇に追い付き、火炎の渦中に取り込んだ。
刹那の内、生命を超越した存在は死を迎え、完全に焼き尽くされる。
「あと一匹、ね」
……技術や才能が彼女の全てではない。
その最たる強さは、揺らぐことのない覚悟。残る時間を燃やし尽くす彼女に、迷いはなかった。迷っている時間はなかった。




