覚醒、皇の力
幾度も瞬きをし、俺は目覚めた。
目の前には未処理の書類が山のように残っている。ただ、累積記録を確認した限り、シナヴァリアは相当数を片付けていたらしい。
どうやら、作業中に寝てしまったようだ。涎が出ていなかったのが幸いと言わんばかりに、顔の下には紙が置かれていた。
俺は前方で光を放ち続けるランプを消し、大きく伸びをする。
帰国から一週間。失敗を聞いたシナヴァリアは予想通りとばかりに、驚いた反応は見せなかった。
しかし、闇の国に送りだしたはずの聖堂騎士は未だ戻らない。連絡すらつかないのだから、異常性は高まってくる。
俺と同じく、失敗して帰るに帰れないのか――いや、そんな不真面目な連中だろうか。
引き出しを開け、金色の釘が収納されたベルトをみる。……どこかで見たような気はするが、どうして俺はこれを持っていたのだろうか。
疑問を覚えるが、すぐに頭を振って切り替えた。そして、引き出しを閉める。
すると、ノック音が聞こえてきた。
「早朝に失礼します」
「ああ、構わない」
すぐに扉が開く。私服や寝間着かと期待もしたが、シナヴァリアはきちんと制服を着込み、寝ぐせ一つない髪で現れた。
「こんな早朝によくもまぁ服まで着替えていたな」
「宰相の仕事は忙しいので」
明らかな嫌みに聞こえた。
いや、明らかな嫌みだ。
「それで、何の用だ」
「天の国への報告を行う頃合いかと、先送りにしておける問題でもありませんし」
「いや、それは分かっているが……いや、あれだな。気まずいな」
「王ならば、その責任を取ってきてください」
「おう」
とりあえず、残っている仕事はまたシナヴァリアにやってもらうとしよう。
しかし……会いに行きづらいな。
「善大王様宛に届いていた荷物は馬車に積載してあります」
「相変わらず、手が早いな……」
シナヴァリアは全てお見通し、か。気が利くんだか、趣味を覗かれている気分になるんだか。
服のしわを伸ばしながら、シナヴァリアの後に続いていく。
「――光の国の治安は極めて良好、ですが先日……」
「そういうことは書類に起こしておいてくれ。後で確認するから」
「善大王様が職務外のものには一切目を通さないことは理解しているつもりです」
小姑の繰り言のように国のことを長々と話され、消耗し始めていた頃に馬車へと到着した。
「では、ビフレスト王によろしくお願いします」
「ああ、任せておいてくれ」
馬車に乗り込んで早々、馬は勢いよく走りだした。光の国で最も足の速い馬なだけあり、そんなに掛からず天の国に到着するだろう。
しかし、どうやって説得するか。というか、どうやって言い訳するか。
あそこまで大口を叩いておいてこの有様。格好がつかないのは王だけではなく、フィアにもだ。
予期せぬ魔物の襲来が原因――といっても、あれがなければティアと戦うことすらできなかった。一因とするには無理があるか。
そうこうして悩んでいる内に、俺は悩み疲れて眠りに落ちた。