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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
539/1603

 薙ぎ払い、突き、能力を見破られてもなお、攻撃は中断することはない。


「お前の防御を突破すれば、同じこと」

「貴様がおれを越えるには、再び操作するしか道はない」


 常時《絶対直感(ウルティマセンス)》を発動させるスタンレーからすれば、一対一での近接戦闘は最も安全な戦いだ。

 不意打ちもなく、目の前の相手の攻撃だけを見切ればいい。その上、彼の地力が回避を可能とすれば、巻き戻す回数は一度か二度で十分。

 攻勢に移る可能性を引き当てるともなれば話は別だが、こうして打ち合う限りは手間はかからない。


「自らの意志で抗おうとする者に、何故このような真似をする」

「国の意志だ。フレイア王は、この町の有り様が気に入らないらしい」

「民まで殺すのが、この国の正義か」

「おれは政治には興味がない。上がどのような思惑で、どのような面倒に苛立っているのかも……おれには関係のない話だ」


 確率の海を泳がず、安易な防御を行っていたスタンレーだが、別の狙いが用意されていた。

 地面に展開されていたのは、《秘術》一発分に相当する《魔導式》。当然、仮面の冒険者も理解していた。

 彼がこの撃ち合いで重視したのは、相手が展開の妨害を行わないこと。その選択が行われないような立ち回りをし、行動の誘導を行った。


「焼き尽くせ《裁きの劫火(フレアドロップ)》」


 朝露の(したた)りを想起させる動きで、上級術に匹敵する巨大な火球が槍使いに降り注ぐ。

 初速から最速に到達しようとも、逃げ切ることは不可能。加速しようとも、その余波までは回避できない。


 だが、その冒険者は槍を構え、空から落ちる炎を突いた。

 動作自体は天空の月に手を伸ばすような滑稽さだが、この攻撃には幼き幻想は存在しない。


 接触に合わせて刃が回転を開始し、放射熱だけで地上の人間を干物にしかねない小太陽を刹那の内に四散させた。


「(これが、無傷の理由か。実体を得た導力は予想できたが、まさか術までも対象とはな)」


 彼の脳裏に浮かんでいたのは、《雷の太陽》ことヴェルギンの姿だった。

 フレイア王の顧問が用いる《封魂手甲》は術の封印を行う神器だが、同じ雷属性であるにもかかわらず、性能は《滅魂槍》に劣っているとしか思えない。

 そんな疑問を解消する為だけに、彼は最高火力である《裁きの劫火(フレアドロップ)》を発動し、効果限界を計った。


「(これ程に厄介な相手だったとはな……冒険者ギルドから引き剥がしたのは正解だった)」




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