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玉石混合のガーネス自警団と違い、《盟友》は全員が近い水準の能力を持っている。総合能力だけであれば、ランクⅣの混じったあちら側の方が上だろう。
ただ、能力の均等化は容易であり、そして強い。
高い能力を持つ者は手加減をし、もっとも低いレベルに合わせる。そうすることにより、他者ができる範囲の行動を理解するのだ。
この格差を極限にまで削る形式こそが、理論的な疑心の排除に繋がっている。
相手のできないはすぐに分かり、そうであると知るからこそ、できないことは言わない。できると言えば、それは確実にできる証明なのだ。
なにより、この状態だと個々の兵が重い責任と影響力を持つ。誰かに任せる、という手を安易に選べないからこそ、能力を最大限に引き出さざるを得なくなるのだ。
迷いもない全力の兵、それは信仰心を利用した宗教軍──シナヴァリアの行ったものと同じ──の健全な形態ともいえる。
圧倒的な兵数の差で始まった戦いだが、流れは《盟友》側にある。
既に二十人が戦闘不能に陥っているが、ガーネスは百人を失っている。割合こそ五分五分とも言えるが、実数値で五倍差が出ている時点で異常事態だ。
むしろ、正念場はここからと言える。
百人という人数は目視で判断できるだけの、大きな数字だ。それだけの仲間が倒されていると分かった時点で、動揺を抑えることはできなくなる。
アリト達としてはこの瞬間こそが攻め時であり、如何に闘うかで自軍の被害率が変化する。
冒盗連合としては、ここで踏ん張らなければ数の有利が意味を失う。
……ただ、両軍の考えは杞憂でしかなかった。
「陽よ、氷を輝かせろ。《天舞の細氷》」
群衆に混じり、《魔導式》の展開を終えていたスタンレーは口許を緩めていた。
かの善大王や《天の星》でさえ、この秘術を前にすれば無力だった。防ぐ術は、両者が持つ法則を越えた力のみ。
風属性使いが上級防御術を発動させれば、この攻撃を凌ぐことは可能だろう。ただし、そのような真似ができる人物は、地上に数人といない。
全てを引き裂く青白い吹雪が、灼熱の砂漠に吹き荒れた。
斬撃を受ける最中、彼らは淡い光で煌めく細氷を見た。
それが自身を殺すものでなければ、心の底から感動していたに違いない。それほどに、この力は美しく、人為的な芸術品とは一線を画していた。
とはいえ、このような状態では迫りくる無数刃としか認識できない。そしてそれは誤りではない。
蛍色をした鋭利な牙は、鑢にかけるように──骨に付着した肉さえも残さず削ぎ取るように、次々と人間を塵に変えていく。
視界が良好となり、熱砂の支配する淡茶色の風景に戻った。
追加されていたのは、無数の死体と多種多様な傷を負った者達──ただ、それらを合計しても、最初の人数と同じにはならない。
「(……見損じか)」
スタンレーはこの結果に不満とばかりに、目を伏せた。完成させた絵が予期するものではなかったかのように。
砂漠は淡泊で平凡色合いではなく、現実離れした鮮やかさを持ち、人間は風景を引き立てる添え物にする予定であった。
氷結した鮮血の粒を地面に撒き、数人の負傷者が立ち尽くすという構成──もっと多くの人間を、死体すら残さずに消し去るのが、彼の理想だった。
飛んだ発想──規模も思考も──だが、規模の面に関しては実行可能な範囲だった。だからこそ、彼は違和感を抱いていたのだ。
とはいえ、ただの一撃で及ぼした影響は凄まじく、他人から見れば圧倒的の一言。
場の流れが完全に変化したと判断し、アリトは「全力前進!」と叫んだ。
瞬間、この時を待っていたとばかりに、砂丘から百人の兵が姿を現す。
ガーネスの残存兵力は二百を切り、その全てが満身創痍──その上、万全の兵が投入されたとなると、もはや打つ手はない。
兵数は同じであっても、練度や状態の差があるとなっては、勝負が成立しない。それこそが、アリトの狙いでもあった。
「勝負は決した。投降するならば、命までは取らない」
論理、感情、その両方を取ることのできる結末。彼が望み、身を削ってまで誘導した展開。




