表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
53/1603

 ――闇の国、森の中にて……。


「くっ……さっきの傷が開いたか」


 ムーアはただ一人、森の中を歩いていた。

 平気な顔をしてはいたが、痛みは幻術によって和らげ、傷口は悟られないように偽装していた。

 しかし、誰の目もないこの場ではそれらをする必要がない。服には血が滲み、痛みは歩む速度を遅らせていく。


『パパ! 今日は約束だよ!』


 娘の声を頭の中で再生し、ムーアは足を引きながら家へと向う。

 しかし、殺意を感じ取った彼は咄嗟に足を止め、周囲の様子を窺った。


「(……この魔力、かなりの使い手か)」


 懐にしまっていたナイフを取り出すと、魔力を感じた方向へと投げつけた。

 当然、それが命中することはなかったが、気配が気付かれているというメッセージにはなった。


「さすがは仮面のムーア。かなり魔力を抑えたたつもりだったが、気付いたか」


 茂みから姿を現したのは、藍色と金色の混じったような色の髪をした、人相の悪い男だった。


「っく……お前は何者だ」

「俺は通りすがりの旅人。名はスタンレーという……覚えておくだけ無駄だと思うがな」


 スタンレーから継続的に放たれる殺意に反応してか、ムーアは黙ったまま《魔導式》を展開し始める。


「ほう、貴様は神器を使うわけではないのか」

「私の前に来ている以上、対策もしているのだろう」

「御名答。だが、どんな手を使っているかは教えられないな」


 ムーアは察していた。

 スタンレーが発動しているのは精神攻撃系に対する反撃の術。いくらムーアの持つ《邪魂面》がどんな相手をも洗脳できるとしても、罠に関して万全なわけではない。

 ともなれば、まず最初に相手の術を解除させる必要がある。それさえクリアすれば、後は神器の能力で決着する。

 威力の低い闇属性では、低順列で人を殺すのは困難になる。制圧することすら容易ではない。

 だからこそ、ムーアは上級術規模にまで威力を伸ばし、《魔導式》を刻んで行く。

 しかし、それをただ見ているスタンレーでもなく、彼はムーアに続くように《魔導式》を刻んでいた。

 色は藍色、ムーアと同じく闇属性の属性色だ。


「(闇属性使い……だとすれば私の方に分がある)」


 ムーアは精神攻撃を主とする使い手。無論、常日頃から神器を使っているわけではなく、実戦では攻撃用の術を用いていた。

 《選ばれし三柱(トリニティア)》としての自戒もあり、彼は普通の人間として戦ってきた。そして、生き残ってきた。

 《魔導式》は一歩早く完成し、ムーアの攻撃準備が整う。

 しかし、それに続くようにスタンレーの《魔導式》は動きを変え、円形に整列されていく。


「(あれは、《秘術》か!?)」


 《導術》を極め、卓越した術への知識を持った者が獲得できる術。同じものは二つとない、その人間固有の術――それこそが《秘術》。

 その性質から初見では確実に見切ることができず、効果も窺いしれない。


「罪状を我が前に晒しあげろ、《審判の監獄ディティクションプリズン》」


 周囲の空間が紫色に染まる。


「戦闘結界の類か。援軍を寄こさない為の小細工をするとは」

「さぁ、どうだろうな。だが、これで準備は整った……狩らせてもらおう、貴様の《秘術》を」

「(《秘術》を狩る? そんなことができるはずがない)」


 《秘術》はその人間だけが得ることのできる術。いくら《魔導式》を同じに刻みこんだとしても、同様の効果を発現させることはできない。

 それは、《秘術》が人の願いを受けている為。その人間の強い意思が、無意識に導力の制御をし、特定の比率に調整する。

 だからこそ、他人では導力の模倣ができない。一般的に考えれば、不可能という答えに辿りつく。

 しかし、スタンレーは薄笑いを浮かべている。自信に満ちた顔。嘘を吐いている人間の顔ではない。


「くっ……《闇ノ百十一番・黒火炎(ダークフレイム)》」


 藍色に縁取られた黒い炎が放たれ、スタンレーに襲いかかる。

 しかし、スタンレーはそれを回避し、再度《魔導式》を展開し始めた。

 ただ、ムーアが安易に回避される術を撃つはずがなかった。

 黒き炎は向きを反転させ、《魔導式》を展開している無防備なスタンレーの背に向う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ