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──ヴェルギン宅……。
「あいつが何をしていようとも、あたしには関係のないことね……」
朝焼けを目にしながら、ミネアは押し寄せてきた眠気を払いつつ、腰掛けていた窓の縁から離れた。
彼女には仕事があり、それは長い人生の中で続けてきたことだった。
周期的に行い、手馴れた早朝の準備。手癖のようなものであると同時に、常に意識して行ってきたことだ。
だからこそ、朝まで思い耽るほどの想いを、こうもあっさり解除できたのは習慣によるものではない。
粗野ながらも《星》としての使命を果たす少女は、《風の太陽》に恋心を抱いていないのだ。
友人以上であることは確かだが、どのように進んでも恋という溝には流れ着かない。互いがそうであるからには、二人の関係は密接した平行線上のものといえる。
ガムラオルスとて、それに近い想いを抱いていることだろう。
彼が若さという病に冒されていなければ、その想いを愛と錯覚し、関わる者に悪影響をもたらしていただろう……だからと言って、あの状態が良かった、というわけではないが。
慣れは感覚を麻痺させ、意識を鈍らせる。
彼女の意識がひとつ前の点と繋がったのは、朝食が終えられた頃だった。
日は昇り、明暗差を作り出さないほどの高さに到達している。
無意識に挨拶を終え、無言で食事を行い、白い皿の前で食後の水分補給を行っていた。
「(眠気のせい、かしら)」
綺麗に完食された皿を重ねると、子供の手伝いを想起させる動作で、それらを流しへと運んでいく。
世界は争いに満ちているというのに、この家の中だけは切り取った場面を再生するように、変化のない空間となっていた。
「ガムラオルスのことかのぉ」
「えっ?」
「朝から……昨日から気が抜けておるように見えるが、恋わずらいかのぉ?」
「なっ……! そんなんじゃ──」
「ああ、あの人は何を考えているのかしら。何をしているのかしら。あたしはこんなにも愛しているのに!」
眠気も相成ってか、挑発にしか聞こえない妹弟子の発言を前にしても、彼女は憤らなかった。
ミネアはまだ人間である。だからこそ、疲労や精神的消耗が思考を阻害していた。
「なによ、それ」
「ミネア様はこんなこと想って、一日中寝ずにいたんだろうな……と、考えまして!」
「あっそ、言っておくけど。私が本当に好きなのは……」
「好きなのは?」
間髪入れぬ問いに対し、気丈で物事をはっきり言うはずの彼女が、口を噤んだ。
「(シアン……だけど、それを言う権利があるの?)」
ある事件以降、ミネアはそれまで彼女の全てだったとも言える、純粋で強い感情を抑え続けている。
何度も何度も、それが正しい判断だったと考えても、本能的欲望が後悔や苦痛に呻く。
たった一つ。
誰にでもあるような、意地の張り合いで。




