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「通らせてもらいますよ」
「白様、その男は……」
番兵は俺を止めようとするが、白は笑った。
「大丈夫。彼は私の知り合いだから、通しても構わない」
「そういうこった。カッカッカ」
適当に煽って見せると、番兵は憤ってきた。殴られる前に退散するとしよう。
城の中に入ると、城下町の荒れ具合とは対照的にしっかりとした内装が目に入る。
働いている者達も整った装いをしており、光の国と同等の文化レベルがあるように思えた。
「こちらです」
「お、おう」
光の国との違いは騒がしさか。向こうは平和ボケしているからか、話し声などが結構聞こえる。
しかし、ここは静かだ。足音などは聞こえるが、誰かが話しているような様子は一切ない。
静かなる威圧感、見えない空気の力場、そんなものを感じてしまう。気楽、気楽で過ごしてきた俺からすると、とても圧迫感の強い城だ。
階段を上っていき、大きな扉を開けると、謁見の間に辿りついた。
どこの国も、大体ここは同じだ。
「白、そいつは誰だ」
落ちついた表情をした黒髪の男はこちらを睨みつけてくる。
城の中というのに、黒い鎧と、地面につくのではないかという長さのマントを纏っている。まるで戦場の陣営に鎮座している将軍のようだ。
しかし、雷の国の王が黒髪なのは分かるが、闇の国の王がそれとはどういうことだろうか。
いや、よく見るとあの髪とは少し違う。黒さにムラがあり、一部灰色のような場所がある。
斑模様、という程ではないが、変わった髪だ。
「彼は善大王です。遥々、光の国から訪れてくださいました」
「なるほど……この男が」
この様子を見るに、あの男が夢幻王らしい。悪の王らしいと言えばらしいな。
態度もどことなく尊大な上、優しさの欠片も感じられない。同じ皇なだけに、他の国の王と比べて謙る様子もない。
「お初にお目にかかる。善大王だ」
「夢幻王だ。それで、なんのようだ、善大王」
さっそくいいパンチを打ってくるな。さすがは同格。
「なに、暇つぶしの観光だ。そこの白に会ったものだから、悪者大将のツラを拝みに来たってだけだ」
煽りに煽りで返すのは礼儀正しい行動ではない。ただ、俺の善大王の本能か、こいつに煽られっぱなしは気持ちのいいものではなかった。
「それで、満足いく答えは得られたか?」
「ああ、途っ轍もなく愛想の悪そうな悪人ズラが拝めたさ。いや、怖い怖い」
「そうか。私としては、善大王は意外な男だったがな。もっと厳かで教養深い者だと思っていた」
なんとも言えず、俺は黙りこんだ。
そんな様子を見かねてか、白が俺と夢幻王の間に割って入ってきた。
「お二人とも、喧嘩はおやめください」
「誰が喧嘩なんかやっているかよ。これはただの交流だ」
「交流? 善大王は変わったものの考えをするらしいな。ただ、喧嘩ではないことは同意か」
互いに意地を張っている。自覚出来てはいる。
にらめっこでもするかのように、俺は夢幻王を睨みつけた。
しばらくすると、荒々しく扉が開け放たれ、兵士が焦った様子で入ってきた。
「夢幻王様、ムーア様が……」
「何っ……どうした?」
兵士はすぐに夢幻王の傍により、耳打ちで何かを伝えていた。当然、俺は何が話されているのかを知ることはできない。
「なるほどな……白! お前は黒を連れて調査に行け」
「分かりました」
「なら、俺も行く」
「善大王、これは闇の国の問題だ。首を突っ込まないで欲しい」
ムーアの名前が出た以上、俺としては無関係の問題ではない。
しかし、今回は分が悪い。相手が同じ皇である以上、問題を起こせば即刻国際問題となってくる。
今までの国ならば多少の都合をつけられたが、ここでは文字通りに対等でしかないのだ。
俺は王としての決断を下し、城を後にした。
ムーアの身に何が起きたのか、その原因が俺にあるのか、気になることは数多くあったが今は光の国に帰ることを優先としよう。