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──アルバハラにて……。
「あたしに依頼だって? ……あんさぁ、王サマだって知ってるんじゃないかい? 今は別の依頼者からのお仕事の最中ってさ」
『もちろん。ですが、その依頼者からも許可は頂いております』
また面倒な仕事か、とアカリは目を伏せた。
ヒルトの護衛は何一つ問題が起こることもなく、ただ彼女をからかうだけで報酬がもらえるというものだ。
仕事にやりがいを求めない彼女からすれば、無条件の報酬と悪趣味な程に贅沢な生活ができるほうが良いに決まっている。
なにより、前回の詐欺紛いの仕事に憤りを覚えているのだから、こう思うのは必然的だ。
『こちらの報酬は金貨十枚』
「……期間は?」
『それはあちらの出方次第かと』
それだけで、再びあの集団の諜報活動を行うのだと把握し、被りを振る。
「願い下げさ。いくら報酬がよくても、手間なのは受けない主義でねぇ」
そう言った瞬間、彼女は気付く。
「ちょっと待ち。依頼の再確認がしたいところさね、詳細を言いな」
『闇の国の部隊が、先行の本隊と合流しようとしていることは』
「分かってるよ」
『警備軍は彼らの合流と同時に襲撃を行います。その後、水の国へと逃亡するであろう部隊の追跡を願いたいのです』
不満によって生まれた口許の歪みは、彼女の眉が動いたことで意味を変化させた。
「了解。従ってやるとするよ、その仕事に」
通信を切ると、外に閉め出されていた二人が戻ってくる。
「こういうのは姉さんのほうが出るもんじゃないですかねぇ。いや、ぼくはいいんですよ、本当に」
「ちょっと込み入った話さ。ついでに言うと、パツキンのパパンから頼まれ事を受けたから、しばらくは開けさせてもらうよ」
それを聞かされながらも、チャックは笑みを崩さない。
「はいな。お戻りはいつ頃で?」
「さ、分かり兼ねるよ。本当はあんたみたいなおっさんに任せていくのは、かーなーりー心配ではあるけど、金の為とあったらそうも言ってられないよ」
勝手に話が進められ、ヒルトは言葉を出せずにいたが、そんな彼女に気兼ね無用とアカリはさっさと部屋を出て行ってしまった。
依頼主による仕事の変更、とりあえずの交代調達、より高い報酬の仕事。これらが揃った時点で、彼女はとても現金な行動を取った。
幼い護衛対象に向ける思いは変わらず、今も金づるの娘でしかないのだ。
「さて、刺激的な交渉としゃれ込もうかね」




