11g
──現代、ヴェルギン宅。
「師匠、戻りました」
「……なんじゃったのか、説明くらいしてくれるかの?」
「女の子のヒステリーですよ。身売りするような子が真っ当な頭のはずがないでしょ?」
ひどく客観的であり、事情に適合した返答だった。たちが悪いのは、これが半分以上事実であり、彼女自身もそう判断したというところにある。
「病んでおる人間には見えんぞ」
「頭がおかしいから、口調も性格も不安定って感じカナ。解剖しても分からないから、だーれも病人扱いしてくれないけど」
「自虐的じゃな」
「師匠みたいな枯れた人を、この……」
自重するように目線を逸らしながら、二房を両手で揺らしてみせる。「体で誘惑しようとするような子だしね」
「それは自信過剰かと思ったんじゃが」
「自虐的に自慢しているのかもね、ワタシ男の人が好みそうなカラダをしてるから」
弟子の会話に付き合っているように見えるが、ヴェルギンは常に観察を続けていた。
分かり切っていたとはいえ、彼女から真が抽出できるはずもなく、あの会話の正体は結局謎のままに終わる。
幻聴、という線はなくもないが、それにしては具体性に満ちていた。
違うという確証はあっても、別の答えが見つかるわけでもない。もっとも気分の悪く、ぬめりけのような気持ち悪さの残る結果だ。
家の外に出ようとした瞬間、ミネアと顔を合わせ、ヴェルギンは足を止める。
「なんじゃ、やっと帰ってきたのか」
「余計なところで足止めもくらっていたから……まぁ、悪くもなかったけど」
彼女がそう言うのもそのはずで、きちんとしたお土産を受け取ってきているのだ。
「なんじゃ、そいつは」
「トリーチ、《盟友》のメンバーです。向こうが出せる、出兵の条件として提示してきて」
「……なるほど、あの若造の」
恨めしいという顔をするトリーチに対し、ヴェルギンは愉快な笑いを向け、肩を強くたたいた。
「あの男の部下というのであれば、信頼できる」
「そりゃ……まぁ、顔に泥を塗ったりはしないけどよ」
本当はこのようなところには来たくなかった、と思っていたに違いない。
彼としては、自身の主の下で戦い、成果を挙げようと考えていたのだ。
それにもかかわらず、首都防衛の際はカーディナルへ、主が戻った際には入れ替えのように送られたと来ている、不満が生まれても仕方がない。




