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歩きながら、ウルスは呟く。
「あいつは厄介な人間だ」
「それはこっちのセリフよ。なんで追及をあの程度で終えたの?」
「なにも分かってねぇクソガキは黙ってろ」
閉じた唇の中では歯が食いしばられており、高飛車な女性が暴行に遭おうとしている時のように、非言語的な抵抗を見せた。
「僕も分からないんですけど……」
「あいつは冒険者ギルドの現状をよしとはしていない」
その言葉を聞いた途端、二人の冒険者は驚きを見せた。ただ、その後の行動は対照的だ。
エルズはすぐさま反論の体勢に入ったが、クオークはというと、言葉の意図を探ろうと思考を巡らせはじめている。
「はぁー? そんなわけないじゃない。もし正義感があれば、あんなことをするわけがないわ。そんなこと、ティアでも分かることよ」彼女は軽蔑するように、屁理屈を吐く子供のように言う。
「ならば、あんなことをするならば、どういう目的だと考える?」
「……エルズ達を同士討ちさせる為?」
「ハッ」と嘲笑にも似た声を漏らし、「なら、俺だけが来ると言うわけがないだろ? あいつの狙いは俺だったんだよ」と溜息混じりに解答を示す。
「ずいぶんな自己評価ね」
「俺は戦前に魔物を狩った。表ではかなり信憑性の高い噂……という扱いでしかないが、上層部はその真実を知っている」
戦前、つまり戦闘ノウハウが存在しない時点で討伐をやってのけた──しかも一人で達成したというのだから、彼の持つ戦力的価値は計り知れない。
だが、ここで重要なのはそんな事実的情報ではないのだ。具体的に言えば、最前線に立たせることのできる、冒険者ギルドの旗印の候補。
過去に残した偉業、それに裏打ちされた実力を示すだけで、事実は雷雲の如く勢いで巨大化していく。
「オッサンの理屈があってるとしても、それは戦争の早期終結が狙いじゃない?」
「それも副産物として発生するだろうな。奴の狙いはギルドでの地位を高め、最終的に丸ごと乗っ取り、現状の組織形態を崩すことだろうな」
告げられたのは、冒険者ギルドの再建。あまりに現実離れし、黙って聞いていたクオークすら眉を顰めた。
「なんでそう思ったのよ」
「あいつの言った、俺と同じというのはそういう意味だ。十中八九、あいつは俺が当時行ったことを知っている。だからこそ、利用できると──同じ目的の人間として信用できるとみたんだろうな」




